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【YouTube詐欺広告問題】監査されていないものは一切信用するな

その“甘い話”、年利に換算すると何%か、計算したことがありますか?

YouTubeを眺めていると、最近、必ずと言っていいほど、あの広告に出くわす。 著名な経済人や起業家の顔を無断で使ったディープフェイク動画が、「私が、あなただけにお金持ちになる秘密を教えます」と、甘く、そして力強く語りかけてくる。

「たった3万円の投資が、500万円になりました!」

素晴らしい話だ。しかし、僕は、その数字を聞くたびに、反射的に電卓を叩いてしまう癖がある。 仮に、その成果が10年で達成されたとしよう。元本3万円が500万円になるということは、年利に換算すると、およそ66%というとんでもないリターンになる。

ここで、冷静になってほしい。 僕たちが堅実なリターンを期待するインデックス投資の平均年利が、5〜7%。 “投資の神様”ウォーレン・バフェットが、生涯をかけて叩き出した驚異的なリターンですら、年利20%程度だ。

年利66%。 これが、何を意味するか。答えは、一つしかない。 100%ありえない、完全な詐欺である、と。

しかし、問題は、僕が「これは詐欺だ」と気づけることではない。問題は、この手の広告が、巨額の広告費を投じて、今もなお大量に流れ続けているという事実だ。それは、この広告に騙され、大切なお金を失っている人が、後を絶たないという、悲しい現実を雄弁に物語っている。

この記事は、単に「詐欺に気をつけましょう」という、ありきたりな注意喚起ではない。 なぜ、僕たちはこのような分かりやすい嘘に騙されてしまうのか。その背景にある社会の構造と、僕が、自らの資産を守るために、自分に課している、たった一つの、しかし極めて強力な「ルール」についての話である。


第一章:なぜ、僕たちは「一発逆転」という名の“麻薬”に溺れるのか

「あんなの、騙される方が悪い」。 そう切り捨てるのは、簡単だ。しかし、僕は、そうは思わない。 この社会には、人々が「一発逆転」という、危険な麻薬に手を出さざるを得ない、構造的な“病”が、深く進行しているからだ。

上がらない給与。終わりなきインフレ。増え続ける税負担。 真面目に、コツコツと働いているだけでは、人生が豊かになるどころか、むしろ緩やかに貧しくなっていく。そんな閉塞感が、社会全体を覆っている。

この状況で、人々が何を求めるか。 それは、「このクソみたいなゲームを、一発でひっくり返す、魔法の裏技」だ。 詐欺師たちは、その心の渇きを、実によく理解している。彼らが売っているのは、投資案件ではない。彼らが売っているのは、「今の苦しい現実から抜け出し、他人を出し抜けるかもしれない」という、甘美な“希望”なのだ。

そして、その希望を信じ込ませるための最後の仕上げが、ディープフェイクによる有名人の顔だ。僕たちが無意識に抱いている「知っている顔」への信頼をハイジャックし、僕たちの論理的思考を停止させる。

これは、個人の知性の問題ではない。 社会が生み出した絶望を、悪意が食い物にしている、という構造の問題なのだ。


第二章:経理の僕が、絶対に破らない“たった一つのルール”

では、この、嘘と欲望が渦巻く世界で、僕たちは、何を信じ、何を信じないべきか。その判断軸を、どうやって持てばいいのか。

僕の答えは、僕が長年、経理という仕事で培ってきた、一つの極めてシンプルなルールに集約される。

「その組織や仕組みは、第三者によって、適切に“監査”されているか?」

これだけだ。 「監査」とは何か。それは、「その組織が主張している数字やルールが、本当に正しく、嘘偽りなく運用されているかを、利害関係のない独立した専門家が、客観的にチェックする仕組み」のことだ。

この「監査」というフィルターを通すと、世の中の投資対象は、驚くほど明確に、二つに分類できる。

  • 信じるもの:監査されているもの
    • 米国株(S&P500、VYMなど): 上場企業は、証券取引委員会(SEC)の厳しい監視の下、公認会計士による厳格な会計監査を受ける義務がある。もちろん100%ではないが、その数字の信頼性は、極めて高い。
    • 投資信託: 金融庁の監督下にある運用会社が、信託法に基づいて、顧客の資産を分別管理している。これもまた、強固なガバナンスが効いている。
  • 決して信用しないもの:監査されていない、あるいは、監査が不透明なもの
    • 暗号資産(仮想通貨): その価値を裏付ける、客観的な資産や収益は、存在しない。価格は、人々の熱狂と欲望だけで決まる。誰が、どうやって、その価値を監査するのか。僕には、理解できない。
    • ソーシャルレンディング: プラットフォーム事業者は監査されていても、その先の、個別の融資案件のリスクや実態が、僕たち個人投資家から、完全に透明に見えることはない。ガバナンス体制は、極めて脆弱だ。

このルールは、冷徹だ。しかし、僕の資産を守るための、最強の“防壁”でもある。


第三章:これからの時代、「稼ぐ力」と同じくらい「騙されない力」が重要になる

僕たちは、新しい時代に突入した。 それは、「いかにして稼ぐか」という攻撃力だけでなく、「いかにして、自分の資産を詐欺や幻想から守るか」という防御力が、同等に、いや、それ以上に重要になる時代だ。

AIは、僕たちの生産性を飛躍的に高めてくれる一方で、ディープフェイクのような、より巧妙で、見分けのつかない詐欺を生み出すための、強力な武器にもなる。

僕たちが身につけるべきは、特定の金融商品知識ではない。 それは、「何を信じ、何を信じないのか」を、自分自身の頭で判断できる、揺るぎない「判断軸」を持つことだ。

僕にとって、その判断軸が「監査体制の有無」だった。 あなたにとっては、それは、また別のものかもしれない。しかし、重要なのは、その軸を、自分の中に、意識的に打ち立てることだ。


あなたの“資産”を守れるのは、あなたしかいない

取られる税金は、僕たちにはコントロールできない。 しかし、残ったけなげな資産を、どこに置き、どう守り、どう育てるかは、完全に僕たちのコントロール下にある。

YouTubeの詐欺広告は、この先もなくならないだろう。 むしろ、もっと巧妙に、もっと魅力的に、僕たちの心の隙間を狙ってくるはずだ。

その甘い囁きに、耳を貸すな。 そんな魔法のような裏技は、この世界のどこにも存在しない。もし存在するなら、僕が今頃、長者番付に名を連ねている。

人生の一発逆転を、他人や、よく分からない仕組みに委ねるな。 自分自身の知性を磨き、自分だけの判断軸を鍛え、自分自身の手で、未来を切り拓く。 遠回りに見えるかもしれないが、それこそが、この混沌とした時代を生き抜くための、唯一、そして最も確実な道なのだから。

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