プログラミング

「コードが書ける」の価値が暴落した世界で。僕が“究極の選択”を乗り越え、IT資格を取った理由

2025年8月13日

その日、世界は変わった。そして「コーダー」の時代は終わった

数年前まで、「プログラミングができる」ということは、それだけで価値のある、強力なスキルだった。複雑なコードを操り、何もないところからサービスやシステムを生み出す「魔法使い」として、彼らは尊敬と高い報酬を得ていた。

しかし、2020年代に入り、生成AIが登場した。 ChatGPTやGeminiが、人間が数時間かけて書くようなコードを、わずか数秒で吐き出すようになった。

その瞬間、世界は不可逆的に変わった。そして、「ただコードが書けるだけの人=単なるコーダー」の価値は、暴落を始めたのだ。

これは、そんな新しい時代の、少し物騒なサバイバル術についての話だ。AIに仕事を奪われることを嘆くのではなく、AIを「奴隷」として使いこなす側に回るために、僕たちが本当に学ぶべきことは何なのか。

そして、僕がなぜ、ひとつの資格試験で「人としての尊厳」と「合格」の二択を迫られるという、壮絶な体験をしてまで、それを学ぼうとしたのかについて、正直に語りたい。


第一章:価値の転換。なぜ「書くスキル」より「わかるスキル」が重要になったのか

誤解を恐れずに言おう。これからの時代、自動車の運転方法を知っている人が、必ずしもエンジンの仕組みを詳細に知る必要がないのと同じように、ITサービスを使う、あるいは企画する人間が、必ずしも自分でコードを書ける必要はなくなる。

AIが、我々の曖昧な指示を、具体的なコードに翻訳してくれるからだ。 「こういう機能のスマホアプリを作りたいんだ」と伝えれば、AIは即座にプロトタイプを生成する。

では、人間の価値はどこにあるのか? それは、「何を作るべきかを定義し、AIに的確な指示を出し、AIが作ったものが正しいかを判断する能力」へと、完全にシフトした。

つまり、手を動かす「コーダー」ではなく、全体像を理解し、設計し、監督する「アーキテクト(設計者)」「プロデューサー」としての能力が、決定的に重要になったのだ。

家を建てたい時、我々は優秀な大工を探すのと同じくらい、あるいはそれ以上に、信頼できる建築家を探すだろう。どんな家を建てたいのか、どんな構造にすべきか、どんな素材を使うべきか。その全体構想を描けなければ、いくら腕の良い大工(AI)がいても、理想の家は建たない。

この「全体構想を描く能力」の根幹を成すのが、ITやAIに関する、広く、しかし本質的な知識なのだ。


第二章:新しい時代の「教養」。ITパスポートとG検定という名の地図

「ITの全体像を理解する」と言っても、あまりに漠然としている。そこで、僕が道しるべとして活用したのが、二つの資格試験だった。

① ITパスポート:社会人のための「共通言語」

まず、すべてのビジネスパーソンが取得すべきだと僕が考えるのが「ITパスポート」だ。これは、ITに関する基礎的な知識を証明する国家試験である。

「今さらITの基礎なんて…」と思うかもしれない。しかし、AIに的確な指示を出すためには、ネットワーク、データベース、セキュリティといったITの「インフラ」がどうなっているのかを知らなければ、話にならない。

僕自身の経験から言えば、この資格は、ITに苦手意識がない人なら、3ヶ月もあれば十分に合格できる。難易度は高くない。しかし、ここで得られる知識は、ITプロジェクトの会議で飛び交う専門用語を理解し、エンジニアと対等に会話するための「共通言語」として、絶大な効果を発揮する。

② G検定:AI時代を生き抜くための「羅針盤」

そして、次の一手として、僕が挑戦したのが「G検定(ジェネラリスト検定)」だ。これは、ディープラーニングを中心とするAIの技術的な手法や、ビジネス活用のための知識を問う試験である。

生成AIがなぜ文章やコードを生成できるのか。その裏にある「ディープラーニング」とは何なのか。その可能性と、同時に存在するリスクや倫理的な課題は何か。

G検定の学習は、AIという、現代の“魔法”の正体を解き明かし、それを使いこなすための「羅針盤」を手に入れるプロセスだ。

正直に言って、この試験は、そこそこ難しい。 難しい理由は、内容の専門性もさることながら、何よりも試験時間が短いことだ。2時間で200問以上という、異常な問題数を、凄まじいスピードで解き続けなければならない。一問あたりにかけられる時間は、わずか30~40秒。考える暇など、ほとんどない。


第三章:僕のG検定合格体験記 - 究極の選択と、YouTubeという名の恩師

この時間との戦いを、僕はどう乗り越えたのか。市販の参考書ももちろん有効だが、僕の主戦場は「YouTube」だった。

特に、「ITエンジニア ノイ」さんという方がYouTubeで公開されている、G検定対策の動画シリーズ。これが、僕にとっての恩師となった。

僕は、これらの動画をすべて2倍速で視聴した。ノイさんの解説は非常に分かりやすく、複雑な専門用語も、スッと頭に入ってくる。動画の合間には、実際の試験形式に即した問題も出してくれるため、知識のインプットとアウトプットを、効率的に繰り返すことができた。時間のない社会人にとって、通勤中や昼休みのスキマ時間に、スマホ一つで学習を進められる動画学習は、最強の武器だった。

そして、試験当日。僕は、人生で最も過酷な「究極の選択」を迫られることになる。

試験開始から1時間半が経過した頃、僕の身体に異変が起きた。強烈な尿意。試験前の水分調整を、僕は完全に侮っていたのだ。

しかし、時計を見れば、残りの問題数はまだ膨大だ。一問30秒のペースでも、ギリギリ終わるかどうか。ここで席を立ち、トイレに行くという数分間のロスは、すなわち「不合格」を意味する。

僕の脳裏を、二つの選択肢がよぎった。

選択肢A:ここで試験を中断し、トイレに駆け込む。合格を失うが、人としての尊厳は守られる。 選択肢B:人としての尊厳をかなぐり捨て、この場で事を済ませ、試験を続行する。 (※もちろん、これは冗談めかした心の声だ)

いや、第三の選択肢があるはずだ。 選択肢C:己の膀胱の限界を信じ、一秒でも早く問題を解き、試験終了と同時にトイレへ駆け込む。

僕は、Cを選んだ。 そこからの30分間は、まさに死闘だった。目の前の問題に集中しようとする意識と、身体の危機を知らせる本能的な信号が、脳内で激しくぶつかり合う。視界は少しずつ霞み、冷や汗が背中を伝う。

「人権を失うか、合格を失うか」

その二つを天秤にかけながら、僕は最後の問題を解き終えた。試験終了の合図と同時に、僕は生まれたての小鹿のように震える足で、部屋を飛び出した。

結果、僕は、合格と人権の両方を、かろうじて守り抜くことができた。


あなたは「魔法使い」か、それとも「魔法の“使い手”」か

僕のこの壮絶な(そして少し滑稽な)体験談は、これからの時代を象徴しているのかもしれない。

AIという強力な魔法が、誰にでも使えるようになった。もはや、魔法の呪文(コード)を暗記しているだけの「魔法使い」に、価値はない。

これからの時代に求められるのは、魔法の本質を理解し、その力を正しく評価し、どの場面で、どの魔法を、何のために使うべきかを判断できる「魔法の“使い手”」なのだ。

ITパスポートやG検定は、その「使い手」になるための、基礎体力と知識を授けてくれる。それは、決して楽な道ではないかもしれない。時には、僕のように、予期せぬ生理現象との戦いを強いられることもあるだろう。

しかし、その先に広がるのは、「AIに仕事を奪われる」という恐怖の世界ではない。 AIを、最も有能で、最も従順な部下として従え、自分にしかできない創造的な仕事に集中できる、刺激的で、自由な世界だ。

あなたは、どちらの世界で生きたいですか? その選択は、今この瞬間の、あなたの行動にかかっている。

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