働き方

会社で「出世しない」という選択。僕が“あえて”選んだ、人生の自由度を最大化する方法

2025年8月9日

「上を目指す」ことが、唯一の正解だと信じていた

「仕事、頑張ってるね。次は課長かな?」 「同期の〇〇が、部長になったらしいぞ」

僕たちは、会社という名の「すごろく盤」の上で、常に上へ、前へと進むことを期待される。昇進し、より多くの責任を担い、より高い給与を得ること。それが、社会人として、唯一の「正解」であるかのように。

かつての僕も、その見えざる圧力の中で、息を切らしながら駒を進めていた一人だ。 しかし、30代も後半に差し掛かったある日、僕は、ふと足を止めてしまった。

盤上のゴールテープの、さらにその先にある「自分の人生」に目を向けた時、僕の心に、一つの根源的な問いが浮かび上がったのだ。 「このすごろくの先に、僕が本当に望む景色は、広がっているのだろうか?」と。

この記事は、そんな僕が、社会の一般的な価値観から一歩引いて、「出世しない」という選択肢を、あえてポジティブに、そして戦略的に選ぶことで、いかにして人生の自由度を取り戻すかについて考え抜いた、一つの「逆転の発想」の記録である。

これは、停滞や諦めのススメではない。 自分だけの「納得感」を羅針盤に、人生という壮大な旅路を、最も賢く、最も豊かに航海するための、静かなる革命の提案だ。


第一章:昇進の「値札」に、僕たちは気づいていない

出世すれば、給与が上がる。権限が増える。聞こえはいい。 しかし、僕たちは、その昇進という名の“商品”に付けられた、目には見えない「本当の価格」を、あまりにも見て見ぬふりをしてはいないだろうか。

僕たちが、一つの役職と引き換えに支払っている、本当のコスト。それは、以下の3つの、かけがえのない「人生の資産」だ。

①「時間」という名の資産

管理職になれば、責任の範囲は爆発的に広がる。自分の仕事だけでなく、部下の進捗管理、育成、そして、彼らの起こしたトラブルの尻拭い。会議の数は倍増し、経営層への報告資料作りに、深夜まで追われる。 わずかな昇給と引き換えに、僕たちは、人生で最も貴重で、二度と取り戻すことのできない「時間」という資産を、会社に売り渡しているのだ。

②「精神」という名の資産

管理職の仕事は、もはや「感情労働」そのものだ。部下同士の人間関係の調整、モチベーションの維持、時には厳しい評価を下すという、精神的な消耗。経営層と現場の板挟みになるストレス。 その見えざる疲弊は、僕たちの心を静かに蝕み、仕事以外の、例えば家族や趣味といった、人生を豊かにするための活動に向けるべきエネルギーを、根こそぎ奪い去っていく。

③「自律性」という名の資産

役職が上がれば上がるほど、僕たちは「会社の人間」としての役割を強く生きることを求められる。会社の決定には、たとえ納得していなくても従わなければならない。休日に、会社の看板を背負ってイベントに参加することもあるだろう。 自分の意思よりも、会社の意思が優先される場面が増えていく。それは、僕が最も大切にする「自律性」という名の自由を、少しずつ会社に明け渡していくプロセスに他ならない。


第二章:「最適高度」に留まるという、戦略的“停滞”

では、どうすればいいのか。 僕がたどり着いた答えは、「山の頂上を目指すのではなく、自分にとって最も快適な“最適高度”を見極め、そこに意図的に留まる」という戦略だ。

キャリアを登山に例えてみよう。 多くの人は、CEOや役員といった「山頂」を目指すことが、唯一の成功だと信じている。しかし、山頂は、常に強風に晒され、空気は薄く、孤独で、景色を楽しむ余裕すらない、過酷な場所かもしれない。

一方で、山の中腹には、風は穏やかで、緑は豊かで、美しい景色をゆっくりと堪能できる、快適な場所があるはずだ。

僕たちが目指すべきは、この「最適高度」ではないだろうか。 それは、会社という山において、

  • 自分の望む人生を送るために「十分な」給与が得られる高度。
  • 過度なストレスなく、自分のスキルを活かして「心地よく」働ける高度。
  • 管理業務という名の“雑務”に追われず、専門性を深めることに集中できる高度。

である。

「もう、これ以上は登らない」。 そう自らの意思で決めること。それは、野心がないことの証ではない。それは、会社という他人のゲームのルールから降り、自分自身の人生というゲームのルールを、自ら設定するという、極めて高度な「自律」の表れなのだ。


第三章:「出世しない」ことで得られる、人生の“自由配当”

① 時間と精神の「再投資」

昇進によって失われるはずだった、膨大な時間と精神的エネルギー。その“浮いた”リソースを、僕たちは、人生で本当に大切なものに「再投資」することができる。

  • 健康へ: ジムに通い、サウナで汗を流し、未来の自分への最大の資産である「健康な身体」を築く。
  • 学びへ: MBAや資格の勉強をし、会社の外でも通用する「知的資本」を磨く。
  • 家族や趣味へ: パートナーとの対話の時間、子どもとのかけがえのない思い出、そして、自分が心から夢中になれる趣味。人生の彩りそのものに、時間を投資する。
② 専門家としての「深化」

管理職という、人を管理するジェネラリストの道を選ばないことは、同時に、自らの専門性を、誰にも負けないレベルまで深める「スペシャリスト」としての道を選ぶことでもある。 マネジメントの雑務から解放され、ひたすらに自分の“腕”を磨き続ける。その結果、あなたは「〇〇部長」という代替可能な役職ではなく、「〇〇のことなら、あの人に聞け」と言われる、代替不可能な存在になることができる。

③ 精神的な「無敵感」

出世競争という、終わりのないレースから降りた人間は、強い。 社内の権力闘争や、上司の顔色を、どこか冷めた視点で、客観的に眺めることができる。「仕事は壮大な暇つぶし」という、僕の哲学の真髄だ。 自分の自己肯定感を、会社の評価という、不安定なものに依存させない。この精神的な「無敵感」こそが、ストレスフルな組織で、心を壊さずに生き抜くための、最強の鎧となる。


あなたは、誰の“すごろく”を生きていますか?

「出世しない」という選択は、決して万人のためのものではないかもしれない。管理職という仕事に、心からの喜びと適性を見出す人も、もちろんいるだろう。

しかし、僕が伝えたいのは、「出世する」という選択肢と、「出世しない」という選択肢が、本来、全く対等な価値を持つべきだということだ。

後者が、決して「失敗」や「諦め」の同義語であってはならない。それは、自分だけの「納得感」を何よりも大切にする人間が、自らの意思で選び取る、誇り高き「戦略」なのだから。

あなたは今、誰かが作ったすごろく盤の上で、駒を進めてはいないだろうか。 一度、立ち止まってみよう。そして、自問してみよう。

僕が本当に登りたい山は、本当に、この山なのだろうか?

その問いと向き合った先にこそ、あなただけの、本当の人生が、静かに始まっていくはずだ。

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