高配当株投資

なぜ僕は、より優秀な“SCHD”ではなく、退屈な“VYM”にこだわり続けるのか

2025年8月3日

「VYMは、もう古いのか?」という問い

高配当株投資という、静かで、しかし着実な航海を続ける船乗りたちの間で、今、一隻の新しい、そして極めて高性能な船が、圧倒的な注目を集めている。 その船の名は、「SCHD(シュワブ・米国配当株式ETF)」

優れた羅針盤(スクリーニング基準)を持ち、力強い追い風(増配力と成長性)を受け、多くの期間で他の船を圧倒するパフォーマンスを叩き出す。その優秀さは、疑いようがない。SNSを覗けば、「高配当投資ならSCHD一択」という声も、日増しに大きくなっているように感じる。

そして、僕は、その声を聞くたびに、静かに自問するのだ。 僕が長年乗り続け、我が船団の旗艦と定めている「VYM(バンガード・米国高配当株式ETF)」は、もはや時代遅れの古い船になってしまったのだろうか、と。

SCHDの華々しい航海記録に、嫉妬にも似た感情を抱くこともある。しかし、それでも僕は、VYMという、少し不器用で、退屈でさえある船を、降りるつもりは毛頭ない。

この記事は、そんな僕が、客観的な数字の上では劣っているかもしれないVYMを、なぜ愛し、これからも共に航海を続けると決めているのか。その、パフォーマンスだけでは測れない、僕だけの「理由」についての、正直な告白である。


第一章:数字という、逃れられない真実 - SCHDは、確かに“強い”

まず、僕たちが向き合わなければならない、客観的な事実から話を始めよう。 データは、時として残酷なほど雄弁だ。VYMとSCHD、この二つのETFを比較した時、多くの指標でSCHDが優位に立っていることは、認めざるを得ない。

項目VYM (Vanguard High Dividend Yield ETF)SCHD (Schwab U.S. Dividend Equity ETF)
ベンチマークFTSEハイディビデンド・イールド指数ダウ・ジョーンズ米国配当100指数
経費率0.06%0.06%
構成銘柄数約460銘柄約100銘柄
構成銘柄のルール市場の予想配当利回りが高い銘柄(大型株中心)10年以上連続増配、財務健全性など厳しい基準をクリアした銘柄
セクター比率金融、ヘルスケア、生活必需品などが上位金融、ヘルスケア、資本財、情報技術などが上位

(注:構成銘柄数やセクター比率は、リバランスにより変動します)

そして、多くの投資家が最も気にするであろう、過去のパフォーマンス。直近5年、10年といった期間で見ると、配当込みのトータルリターンや、一株あたりの配当がどれだけ増えたかを示す増配率において、SCHDがVYMを上回るケースが多い。

これは当然の結果とも言える。SCHDは、「10年以上の連続増配実績」や「高い財務健全性」といった、厳しい基準(スクリーニング)をクリアした、いわば“エリート銘柄”だけを集めているからだ 。

一方のVYMは、「単純に、予想配当利回りが高い順」に、REITを除く幅広い銘柄を採用する。良くも悪くも、“玉石混交”の市場平均に近い形だ。

合理的に、そしてドライに数字だけを追求するならば、最適解はSCHDなのかもしれない。 ではなぜ、僕はその「正解」を選ばないのか。


第二章:僕が投資に求めるもの - 「最高のパフォーマンス」より「絶対的な安心感」

それは、僕が投資という行為に、単なるリターンの最大化だけを求めていないからだ。僕がVYMから得ているのは、お金以上の、3つの「精神的な報酬」である。

① “退屈”という名の、心の平穏

VYMの構成銘柄上位を見てほしい。 エクソンモービル、ジョンソン・エンド・ジョンソン、P&G、JPモルガン・チェース、ブロードコム…。 そこに並ぶのは、良くも悪くも、巨大で、成熟しきった、少し“退屈”な企業たちだ。彼らが、来年株価が10倍になることはないだろう。しかし、10年後、20年後に、この世界から消えている姿も、到底想像できない。

僕たちの生活のインフラを支え、世界経済の“背骨”となっている、巨大なオールドカンパニー群。この、退屈なほどの安定感こそが、僕に「何もしない自由」を与えてくれる。日々の株価の変動に一喜一憂することなく、四半期ごとの決算に神経をすり減らすこともなく、ただ、どっしりと構えていられる。この**「ほったらかしにできる」**という感覚こそが、僕がVYMに支払う信託報酬の、本当の対価なのだ。

② “シンプルさ”という、揺るぎない美学

SCHDの、財務指標に基づいた巧妙なスクリーニングは、確かに素晴らしい。しかし、僕は、その「複雑さ」に、一抹の不安を覚えてしまう。巧妙で、複雑なルールは、時代の変化によって、いつかその前提が崩れるかもしれない、と。

一方、VYMのルールは、愚直なまでに“シンプル”だ。「配当利回りが高い銘柄を、広く、たくさん買う」。ただ、それだけだ。そこには、人間の小賢しい未来予測は、ほとんど介在しない。市場のメカニズムそのものに、身を委ねるという思想。この、飾り気のないシンプルさ、潔さに、僕はSCHDにはない、揺るぎない「美学」と、長期的な信頼を感じるのだ。

③ “460銘柄への分散”がもたらす、思考停止の権利

VYMの構成銘柄数は、SCHDの4倍以上。約460社に、広く分散されている [8, 9]。これは、何を意味するか。 それは、「個別企業のことを、何も考えなくていい」という、最高の権利だ。

仮に構成銘柄の一社が、不祥事を起こそうが、時代遅れになろうが、この巨大な船全体への影響は、ごく僅かだ。僕は、特定の企業の未来を予測するという、神でもない限り不可能なゲームに参加する必要はない。ただ、アメリカという国全体の、資本主義の大きな潮流に乗っていればいい。

この「思考停止できる」仕組みが、僕を投資という名の雑務から解放し、僕の人生における、もっと大切なこと——家族との時間や、自分自身の学び、そして内省——に、貴重な時間とエネルギーを使わせてくれるのだ。


投資とは、自分の“生き方”を映す鏡である

どちらのETFが優れているか、という議論に、絶対的な答えはない。 それは、あなたが投資に、そして人生に、何を求めるか、という問いに他ならないからだ。

常に最新の情報を追いかけ、より優れた手法を模索し、リターンを最大化することに喜びを見出す。そんな「合理的で、スマートな生き方」を体現するのが、SCHDなのかもしれない。

一方で、多少の非効率は受け入れても、物事のシンプルさと、長期的な安定を愛し、日々の心の平穏を何よりも重視する。そんな「愚直で、退屈な生き方」を体現するのが、VYMなのだと、僕は思う。

投資とは、突き詰めれば、自分自身の「価値観」や「生き方」を、市場という名の鏡に映し出す行為だ。

だから、僕はこれからも、VYMという名の、少し古風で、乗り心地は退屈かもしれないが、決して沈まないと信じられる、この巨大な船に乗り続けるだろう。

誰かの正解ではない、自分だけの「納得感」を、この航海の羅針盤として。

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