高配当株投資

【S&P500やオルカン”だけ”で良いの?】高配当株(VYM)を組み合わせるべき理由

「投資の最適解は、S&P500か、オルカン(オール・カントリー)のインデックスファンドを、ただひたすら積み立て続けることだ」

いつからか、これは投資界隈における一つの「正義」となった。合理的な判断を好む、聡明な投資家であればあるほど、この結論にたどり着く。

もちろん、僕もその考えを否定しない。むしろ、その合理性とパワーを誰よりも理解しているつもりだ。事実、僕の資産形成の「主役」は、間違いなくインデックス投資である。

しかし、もし誰かに「では、あなたのポートフォリオはS&P500かオルカン、100%ですか?」と問われれば、答えは「ノー」だ。

僕のポートフォリオには、インデックスファンドと並んで、もう一つの重要な主役が存在する。それが、米国高配当株ETFである「VYM」だ。

「なぜ?インデックス投資が最適解だと分かっているのに、なぜ他のものを混ぜるんだ?」 「手数料の高い高配当株なんて、非効率じゃないか?」

そう思われるかもしれない。だが、僕にとってこの組み合わせは、非効率なノイズではなく、資産形成という長い旅路を、最後まで“人間らしく”走り抜くための、必然の戦略なのだ。

この記事では、僕がなぜインデックス投資だけでは満足できず、高配当株(VYM)を組み合わせるのか。その本音の理由、そして僕の投資哲学の根幹について、深く語っていきたい。

僕がインデックス投資を「最強のエンジン」だと信じる理由

まず大前提として、僕がインデックス投資をどれだけリスペクトしているか、という話をさせてほしい。

S&P500やオルカンへの投資は、いわば「人類の成長の恩恵を、まるごと享受する」という、極めて賢明なアプローチだ。

  • 世界経済の成長に乗れる: 資本主義が続く限り、世界経済は長期的には右肩上がりに成長してきた。その平均点を、誰でも簡単に取ることができる。
  • 手間いらずの分散投資: たった一つの商品を買うだけで、世界中の何千もの企業に分散投資できる。これほど効率的なリスク分散はない。
  • 低コスト: 手数料が驚くほど安く、リターンを最大化できる。

これらは紛れもない事実であり、過去のデータもその優位性を証明している。インデックス投資は、僕の資産を未来へと運んでくれる、パワフルで静かな「最強のエンジン」だ。

では、なぜ僕はこの最強のエンジンだけで満足できなかったのか。 それは、投資とは、数学やデータだけで完結するゲームではなく、極めて人間的な感情が絡む、心理戦の側面を持っているからだ。

インデックス投資の「含み益」という、あまりに儚い存在

インデックス投資を続けていると、資産は順調に増えていく。評価額の数字はどんどん大きくなり、画面を見るたびに満たされた気持ちになる。

しかし、冷静になって考えてみてほしい。 その画面上の数字は、一体何だろうか?

それは「含み益」だ。 あなたが商品を売却し、利益を確定させ、税金を払って、初めて手元に残るお金。つまり、それはまだ「あなたの本当のお金」ではない。極端に言えば、それはまだ、ただの幻なのだ。

天気の良い日は、それでいい。市場が右肩上がりの時は、「幻の資産」は日に日に膨らみ、僕たちを幸せな気分にさせてくれる。

だが、嵐の日はどうだろう。

2022年の調整局面や、コロナショックのような暴落が訪れた時、インデックス投資家が唯一受け取るフィードバックは、「資産評価額の減少」という、ただ一つの残酷な事実だけだ。

昨日まで1000万円あったはずの評価額が、900万円になり、800万円になる。 もちろん、頭では分かっている。「ここで売ってはいけない」「むしろ買い増すべきだ」と。

しかし、心はどうだろうか? 何のポジティブなフィードバックもないまま、ただ資産が溶けていく現実を、僕たち人間は、本当に耐え続けられるのだろうか。

この、「暴落時に、心が折れてしまうリスク」こそが、インデックス投資が持つ、唯一にして最大のアキレス腱だと僕は考えている。

なぜVYMなのか?「配当金」という名の、嵐の中の灯台

ここで、僕のポートフォリオのもう一人の主役、VYMの出番となる。

僕が高配当株ETFであるVYMを組み入れる最大の理由は、「配当金」という、リアルな現金(キャッシュフロー)を、定期的にもたらしてくれるからだ。

この「配当金」がもたらす効果は、僕たちが思う以上に、絶大だ。

これを僕は「投資の“手触り感”」と呼んでいる。 評価額というバーチャルな数字ではなく、チャリン、と自分の銀行口座に振り込まれる、本物の現金。それは、単なるお金以上の、3つの重要な意味を持っている。

  1. 嵐の中でも「資産が働いている」ことを実感させてくれる 市場が暴落し、VYMの評価額が下がっていたとしても、配当金は(減配のリスクはあるにせよ)振り込まれ続ける。これは、「あなたの資産は死んでいない。今この瞬間も、あなたのために健気に働き、お金を生み出してくれているよ」という、何より力強いメッセージだ。この「実感」が、暴落時の不安をどれだけ和らげてくれることか。
  2. 投資を継続するための、最高のモチベーションになる インデックス投資の報酬が「数十年後に資産が大きくなる」という遠い未来の約束であるのに対し、配当金は「3ヶ月ごとの、ささやかなボーナス」だ。この定期的な報酬は、「よし、次の配当金のために、また追加投資しよう」という、具体的でポジティブなモチベーションを生み出す。
  3. 「売らずに耐える」から「配当金で買い増す」へ 暴落時、インデックス投資家は「売らずに耐える」という守りの姿勢を強いられる。しかし、配当金があれば、「この配当金で、安くなったVYMやオルカンを買い増そう」という、攻めの姿勢に転じることができる。このメンタルの違いが、長期的なパフォーマンスにどれほど大きな影響を与えるか、想像に難くないだろう。

配当金とは、嵐の海で自分の船が沈みかけている時に、遠くで点滅する「灯台の光」なのだ。その光があるからこそ、僕たちは希望を失わず、航海を続けることができる。

僕の結論:エンジンと発電機。両方を積んだ「全天候型ポートフォリオ」

ここまで読んでいただければ、僕の戦略はもうお分かりだろう。

  • S&P500 / オルカン: 僕の資産を未来の目的地まで運んでくれる「主力の大型エンジン」。その役割は、長期的な資産価値の最大化だ。
  • VYM: 主力エンジンが嵐で揺れても、船内の電気を灯し続ける「自家発電機」。その役割は、定期的なキャッシュフローによる、精神的な安定と投資継続モチベーションの維持だ。

主力エンジンだけで、目的地まで最速で到達できるかもしれない。しかし、途中の嵐で発電機がなければ、船内は真っ暗になり、乗組員(僕自身)はパニックに陥り、航海を諦めてしまうかもしれない。

僕は、最速でゴールすることよりも、どんな天候でも、確実に、そして心穏やかに航海を続け、目的地に到達することを選んだ。

だから、僕はインデックス投資と高配当株投資を組み合わせる。 それは、合理性と感情、資産の成長と精神の安定。その両方を追求する、僕なりの「最適解」なのだ。

もしあなたが、インデックス投資の合理性を理解しつつも、どこか心の底で「暴落時に、自分は本当に耐えられるだろうか?」という小さな不安を感じているのなら。

僕のこの「エンジン」と「発電機」を両方積むという考え方が、あなたの資産形成という長い航海の、一つのヒントになれば、これほど嬉しいことはない。

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