
「どうやって、そんなに資産を築いたんですか?」
時々、こう尋ねられることがある。その背景には、何か特別な「秘訣」や「裏技」があったのではないか、という期待が込められているのを感じる。
しかし、そのたびに僕は少し申し訳ない気持ちになる。なぜなら、僕がやってきたことは、拍子抜けするほど「普通」で、退屈で、なんの派手さもないことの連続だったからだ。
僕が資産を築けたのは、特殊な才能があったからでも、リスクの高い投資で一発当てたからでも、ましてや親からの援助があったからでもない。
もし、たった一つだけ「成功の理由」を挙げるとするならば、それは「正しいと信じる、ごく少数のルールを、ただ長期間、淡々と守り続けた」こと。ただ、それだけだ。
この記事では、僕が実践してきた、誰にでも真似できる「再現性のある資産形成」の方法と、その根底にある考え方について、包み隠さず全てを語りたい。これは、一部の天才のためではない、僕のような凡人が、着実に人生の主導権を取り戻すための、極めて現実的な戦略の話だ。
1. なぜ資産を積み上げられたのか
僕が資産形成のスタートラインに立った時、まず決めたことがある。それは、「短期的な成功を求めない」ということだ。
多くの人が、資産形成を「短距離走」だと勘違いしている。すぐに結果が出る方法を探し、市場の動きに一喜一憂し、疲弊してリタイアしていく。
しかし、本質は全く逆だ。資産形成は、「風景の変わらない長い一本道を、ただ歩き続けるマラソン」なのだ。
この大前提を理解していたからこそ、僕の戦略は驚くほどシンプルになった。
- 収入の一定割合を、何があっても貯蓄・投資に回す「仕組み」を作ったこと。
- そのお金を、市場の平均点を狙える「インデックスファンド」に投下し続けたこと。
- そして何より、暴落時にも、そのルールを絶対に破らなかったこと。
特別なことは何一つない。しかし、この「当たり前のことを、特別な時でも当たり前に続ける」という、退屈な規律こそが、僕の資産を雪だるま式に増やしてくれた、唯一のエンジンだったのだ。
2. 再現性のある行動と考え方
では、具体的にどんな「行動」と「考え方」が、この退屈な規律を支えてきたのか。再現性という観点から、4つに絞って解説しよう。
行動①:「給料天引き」という最強の仕組み 資産形成の成否は、「意志の力」で決まるのではない。「仕組みの力」で決まる。僕がまずやったのは、「給料が入ったら、残った分を貯金する」という発想を捨てることだった。給与振込口座から、証券口座へ、毎月決まった額を「自動で」送金する設定をしたのだ。これは「自分への給料天引き」だ。先に投資分を確保し、残ったお金だけで生活する。この仕組みさえ作ってしまえば、あとは意志の力など一切必要ない。
考え方①:「長期計画性」という名の“割り切り” 僕は、自分の投資が1年後、2年後にどうなっているかには、ほとんど興味がない。僕が見ているのは、常に10年後、20年後だ。この「長期目線」を持つと、驚くほど心が楽になる。短期的な市場の暴落は、もはや「恐怖」ではなく、「優良資産のバーゲンセール」という「好機」にしか見えなくなる。この、良い意味での“割り切り”こそが、長期投資を成功させるための、精神的な礎となる。
行動②:インデックス投資という「凡人のための正解」 僕は、個別株の分析に時間を費やさない。なぜなら、市場の平均点に勝ち続けることが、いかに難しいかを知っているからだ。S&P500やオルカンのようなインデックスファンドに投資するということは、「世界経済の成長」そのものに賭けるということ。これは、専門家でなくとも、誰もが恩恵を受けられる、極めて民主的で、再現性の高い方法だ。
考え方②:「時間を味方につける」という覚悟 資産形成における最強の武器は、知識でも、才能でもない。それは「時間」だ。福利の力は、時間が経てば経つほど、爆発的な効果を発揮する。だからこそ、一日でも早く始めることが重要になる。そして一度始めたら、市場から退場しないこと。このシンプルな原則を守る覚悟が、将来の資産額を決定づける。
3. 若い頃に避けるべきこと
再現性のある行動を続けるのと同じくらい重要なのが、「やってはいけないこと」を、徹底して避けることだ。特に、時間という最大の武器を持つ20代の頃に、絶対に避けるべき「落とし穴」が3つある。
- 見栄のための「リボ払いや消費者金融」 言うまでもないが、これは資産形成における「自殺行為」だ。福利の力を、マイナス方向でフル活用していることに他ならない。年利15%の借金は、72の法則で言えば、たった5年で残高が2倍になる。目先の快楽のために、未来の自分から、最も高い金利でお金を借りていることを自覚すべきだ。
- 一発逆転を狙った「投機」 友人から勧められた、よく分からない個別株。SNSで流行りの仮想通貨。これらは「投資」ではない。それは、ただの値上がりを期待する「投機」だ。再現性のある資産形成とは、自分の理解できないものには手を出さない、という知的な誠実さを持つことでもある。
- 収入増に合わせた「生活レベルの上昇」 これが、最も多くの人が陥る、最大の罠だ。昇進して給料が上がったからと、家賃の高い部屋に引っ越し、高級車に乗り換える。これを繰り返していては、一生お金は貯まらない。収入の増加分は、「なかったもの」として、すべて投資に回す。この規律を守れるかどうかが、凡人と富裕層を分ける、決定的な分岐点となる。
4. 支出の管理・生活レベルの制御
僕は、切り詰めた節約生活を送っているわけではない。むしろ、価値を感じるものには、躊躇なくお金を使う。では、僕の「生活防衛」と「浪費」の境界線はどこにあるのか。
それは、「その支出は、僕の人生を永続的に豊かにしてくれるか?」という、たった一つの問いだ。
例えば、僕は健康のための支出を惜しまない。質の良いマットレスや、人間ドックへの投資は、将来の医療費を抑え、何より日々のパフォーマンスを高めてくれる、最高の自己投資だ。家族との旅行や、新しい知識を得るための書籍代も同様だ。これらは、僕の人生という名の「資産」そのものを、より豊かにしてくれる。
一方で、他人に見せるためのブランド品や、ステータスを誇示するための高級腕時計には、全く興味がない。それらがもたらす満足感は、あまりに短く、刹那的だからだ。
大切なのは、「いくら使ったか」という金額ではない。「何のために使ったか」という目的だ。 自分にとっての価値の軸を明確に持ち、そこにお金を集中投下する。そして、それ以外の支出は、容赦無く切り捨てる。この「選択と集中」こそが、支出管理の本質だ。
5. お金に支配されない生き方へ
僕がなぜ、これほどまでに資産形成にこだわってきたのか。 それは、大金持ちになりたいからではない。高級車に乗りたいからでも、タワーマンションに住みたいからでもない。
僕が欲しかったのは、「お金の心配をしなくていい人生」という、ただ一つの自由だ。
資産という土台があることで、僕たちは人生における「選択の自由」を手に入れることができる。 嫌な仕事に、生活のために我慢してしがみつく必要がなくなる。 お金を理由に、家族との大切な時間を犠牲にしなくて済む。 挑戦したいことができた時、「でも、お金がないから」という言い訳をしなくて済む。
お金は、それ自体が目的ではない。 人生を、より自分らしく、納得感を持って生きるための、最強のツールなのだ。
僕が語ってきた方法は、退屈かもしれない。しかし、これほど確実で、誰にでも開かれた道はないと確信している。
この“普通”な方法を、ただ淡々と続ける。 その先には、お金に支配されるのではなく、お金をツールとして使いこなし、自分自身の人生を生きるという、静かで、しかし何にも代えがたい、本当の自由が待っているはずだ。