学び

【あなたは「消えた1000円」の問題を解けますか?】AI時代に、本当に価値を持つ“思考力”の話

あなたは、この“謎”が解けますか?

先日、電車の広告で、ある有名なロジックパズルを見かけた。あなたも、一度は聞いたことがあるかもしれない。

3人の男がホテルに入りました。 1泊3万円の部屋が空いていると言われ、3人は1万円ずつ払って泊まりました。

翌朝、主人は部屋代が本当は2万5千円だったことに気づき、ボーイに5千円を渡して、客に返すよう言いつけました。

しかし、このボーイはズルをして、2千円を自分の懐に入れ(猫ババし)、3人に1千円ずつ返しました。

さて、整理してみましょう。 3人の男は、1万円払って1千円返ってきたので、支払ったのは、一人9千円。3人なので、合計2万7千円

それに、ボーイが盗んだ2千円を足すと、2万9千円

あれ…? 残りの1000円は、どこへ消えてしまったのでしょう?

僕は、この問題を解けませんでした。あなたはどうだろうか。 しかし、僕がこの記事で本当に語りたいのは、この問題の「答え」ではない。答えは、少し調べればすぐに出てくる。

僕が、そして僕たちが、本当に向き合うべきなのは、なぜ、僕たちはこの、一見すると論理的な「罠」に、こうも簡単にはまってしまうのか、という事実だ。

そして、この小さなパズルに隠された思考の「罠」こそが、現代社会のあらゆる場面——政治、ビジネス、そして僕たち自身の人生——に、巧妙に仕掛けられているとしたら…?

これは、与えられた情報に右往左往せず、物事の本質を見抜くための「思考力」についての、僕なりの考察である。

「消えた1000円」の正体 - 計算式の“前提”を疑う

まず、このパズルのトリックを解き明かそう。 僕たちが騙されるのは、「3人の支出(2万7千円)+ ボーイの懐(2千円)= 2万9千円」という、“もっともらしい”計算式が提示されるからだ。

しかし、この計算式そのものが、全くのデタラメなのだ。

正しいお金の流れを整理してみよう。

  • 3人が支払ったお金:2万7千円
  • この2万7千円の行き先:
    • ホテルの売上:2万5千円
    • ボーイの懐:2千円
登場人物最終的にお金がどこにあるか金額
ホテルの主人部屋代として受け取った25,000円
ボーイ盗んだ(所持している)2,000円
3人の男返金されて手元に戻った3,000円
合計30,000円

そう、2万7千円 = 2万5千円 + 2千円。 計算は、完璧に合っている。どこにも、1000円など消えていない。

「3人の支出」と「ボーイが盗んだお金」は、足し算する関係にはない。むしろ、3人が支払った2万7千円の「内訳」が、ホテル代とボーイの懐、なのである。 この問題は、僕たちが「提示された前提(計算式)を、無条件に信じてしまう」という、思考の弱点を、見事に突いてくるのだ。

そして、この「前提を疑う」という力こそが、これからの不確実な時代を生き抜く上で、決定的に重要になると、僕は考えている。

「前提を疑う力」の実践 - なぜ、あの政党は躍進したのか?

この思考法を、より複雑な、現実の社会問題に適用してみよう。 例えば、先日の参院選。これまでマイナー政党と見なされていた、国民民主党や参政党が、なぜあれほどの躍進を遂げたのか。

多くのメディアは、「自民党の受け皿として、批判票が流れた」といった、表層的な解説をする。しかし、僕たちは、そこで思考を停止してはいけない。「前提を疑い」、「なぜなぜ分析」を、深く、執拗に、繰り返してみるのだ。

  • なぜ、自民党の受け皿が必要になったのか?
    • → これまで自民党を支持してきた層が、離れ始めたからではないか?
  • なぜ、彼らは自民党を支持してきたのか?
    • → 経済成長への期待や、安定感。あるいは、他に有力な「選択肢」がなかったからではないか?
  • なぜ、その前提が崩れたのか?
    • → 長引く経済停滞と、増え続ける負担。そして、SNSの登場によって、人々の価値観が、かつてないほど「多様化」したからではないか?
  • なぜ、多様化した人々が、国民民主や参政党に惹かれたのか?
    • → マスメディアが取り上げない、自分たちの「痛み」や「悩み」を、彼らが代弁してくれているように感じたからではないか?

この思考の旅路の果てに、僕なりの一つの「仮説」が浮かび上がってくる。 それは、これからの時代の政治に求められるのは、もはや、実現可能かどうかも分からない、壮大な「正しさ」ではない。むしろ、一人ひとりの、個別で、具体的な「痛み」に寄り添い、「共感」してくれること。そして、「この人なら、何とかしてくれるかもしれない」という、かすかな希望を提示してくれること。

政治は、「共感」の時代へと、その舵を切ったのかもしれない。 正しいかどうかは、分からない。しかし、少なくとも、この仮説は、表層的なニュースを眺めているだけでは、決して見えてこない景色だ。

「値下げ」という“思考停止” - あなたの会社は、大丈夫か?

この「なぜなぜ分析」は、僕たちのビジネスにおいても、強力な武器となる。

例えば、ある商品の業績が悪化したとする。 思考停止に陥った組織が、最初に飛びつく安易な解決策。それは「値下げ」だ。

しかし、本当にそれが、本質的な解決策だろうか。 「前提を疑う」力を持つ者は、ここから、執拗な「なぜ」の連鎖を始める。

  • なぜ、売上が落ちたのか?
    • → 顧客が、競合の製品Aを選ぶようになったからだ。
  • なぜ、顧客は製品Aを選ぶのか?
    • → 製品Aの方が、価格が安いからだ。(もしそうなら、値下げは有効かもしれない)
    • → いや、価格だけではない。製品Aのデザインの方が、今の若者の感性に合っているからだ。
  • なぜ、我々のデザインは、時代遅れになったのか?
    • → 長年、同じデザイナーに頼り続け、新しい視点を取り入れることを怠ってきたからだ。
  • なぜ、新しい視点を取り入れられなかったのか?
    • → 成功体験に固執する、上層部の抵抗があったからだ。

ここまで掘り下げて初めて、僕たちは、本当の問題の根源——「組織の硬直化」——にたどり着くことができる。そして、本当に打つべき手は、「値下げ」などという付け焼き刃の対策ではなく、「組織改革」や「デザイン部門への投資」といった、より本質的な戦略であることに気づくのだ。

もちろん、この分析が、常に正しい答えを導き出すとは限らない。時には、壮大な見当違いに終わることもあるだろう。 しかし、重要なのは、答えそのものではない。自分の頭を使い、粘り強く、深く思考する、そのプロセスそのものが、僕たちの思考能力を鍛え上げ、人間としての深みを与えてくれるのだ。

AIが「正解」をくれる時代に、僕たちが、本当にすべきこと

AIが、あらゆる問いに対して、「正解らしいもの」を、一瞬で提示してくれる時代が、もうそこまで来ている。 その時、僕たち人間の価値は、どこにあるのか。

それは、AIが提示した「正解」の、そのさらに奥にある「前提」を疑い、「なぜ?」と問い続ける力にこそ、宿るのではないだろうか。

「消えた1000円」の謎に、僕たちはもう騙されない。 与えられた情報を、ただ鵜呑みにする時代は終わった。

自分の頭で、考え抜け。 世界の複雑さを、愛せ。 そして、あなただけの「納得感」ある答えを、見つけ出す旅を、今日から始めようじゃないか。 その知的で、スリリングな冒険こそが、これからの時代を生き抜くための、最高のスキルなのだから。

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