絶望の淵で、最初に捨てるべきもの
想像してみてほしい。 あなたが38歳。社会人として、もう15年以上も働き続けてきた。しかし、あなたの銀行口座には、まとまった貯金と呼べるものは、何一つない。
焦り、後悔、そして、未来への漠然とした、しかし確かな絶望。 「もう、俺の人生は終わりだ」 そう思ってしまうのも、無理はない。
しかし、もし、今の僕が、すべての知識と経験を持ったまま、その38歳・貯金ゼロの時点に戻るとしたら。僕は、絶望などしない。むしろ、静かな興奮と、確かな希望を胸に、こう呟くだろう。
「ここからだ。ここから、本当の俺の人生が始まる」と。
この記事は、そんな僕が考える、人生のどん底から這い上がるための、極めて現実的で、誰にでも再現可能な「再起」のシナリオだ。これは、単なる精神論ではない。かつての僕がそうであったように、今、道に迷っているあなたが、人生の主導権を自分の手に取り戻すための、具体的な戦略地図である。
このシナリオの第一歩は、何かを得ることではない。 それは、何かを「捨てる」ことから始まる。捨てるべきもの。それは、あなたの心を蝕む「見栄」と「他人との比較」という、重たい鎧だ。
第一章:収入の最大化 - “戦場”を変えなければ、何も始まらない
貯金ゼロの人間が、まず最初に手をつけるべきこと。それは、支出を切り詰めること(節約)ではない。収入を、1円でも多く増やすことだ。
そして、サラリーマンである僕たちにとって、最も確実で、最もインパクトの大きい収入増加策は、「転職」である。
「今の会社で頑張って、昇給を待つ」などという、悠長なことを言っている場合ではない。あなたの今の給与は、あなたの市場価値を正当に反映していない可能性が高い。
狙うべきは「大企業の子会社」という名の“優良惑星”
では、どこを目指すべきか。僕なら、迷わず「日本の大企業の子会社」を狙う。 なぜなら、そこには、人生を再起するための、理想的な環境が整っているからだ。
- 安定した経営基盤: 親会社の強力なバックボーンがあり、倒産リスクが低い。
- 充実した福利厚生: 親会社に準じた、手厚い福利厚生(家賃補助、退職金制度など)が期待できる。
- 適切な給与水準: 中小企業に比べれば、明らかに高い給与水準と、整備された評価制度がある。
- ホワイトな労働環境: コンプライアンス意識が高く、理不尽な長時間労働が少ない傾向にある。
もちろん、親会社本体や、華やかなベンチャー企業に比べれば、地味かもしれない。しかし、僕たちが今求めているのは、一発逆転のホームランではない。確実にヒットを打ち続け、得点を重ねていける、安定した打席なのだ。
第二章:支出の最適化 - 「節約」ではなく「価値観」で生きる
収入を上げる道筋が見えたら、次に取り組むのが「支出」だ。 ここで言う「節約」とは、欲しいものを我慢する、苦しいだけの禁欲生活ではない。それは、「自分にとって、本当に価値のあるもの以外には、1円も払わない」という、極めて主体的な価値観の再構築である。
「寝ること」と「カラオケ」を趣味にせよ
僕なら、まず「趣味」を見直す。 お金のかかるゴルフや、見栄のための飲み会は、すべて捨てる。
そして、新しい趣味として「睡眠」と「一人カラオケ」を選ぶ。 睡眠は、コストゼロで最高のパフォーマンスを引き出す、最強の自己投資だ。疲労した心身を回復させ、冷静な判断力を取り戻させてくれる。 週に一度の朝のカラオケは、数百円で、誰にも邪魔されずに大声を出し、ストレスを発散できる、最高の娯楽だ。
高価なブランド品で身を飾らなくても、僕たちの心は、満たすことができる。大切なのは、自分だけの「幸福の基準」を見つけ出すことだ。
第三章:資産形成の自動化 - “意思”を排除し、「仕組み」に働かせる
収入を増やし、支出を最適化した。そこで生まれた、なけなしの「余剰資金」。 これを、どうするか。銀行口座に貯金しておくだけでは、インフレという名の怪物に、その価値を静かに食い尽くされていくだけだ。
僕なら、一刻も早く「自動積立による、インデックス投資」の仕組みを作る。
① 投資先は「オルカン」か「S&P500」だけでいい
個別株の分析など、必要ない。僕たちがやるべきは、世界経済全体の成長に、ただ黙って便乗することだ。全世界株式(オルカン)か、米国株式(S&P500)に連動する投資信託。このどちらかを、一つだけ選べばいい。
② 給与天引きで、「最初からなかった金」にする
そして、最も重要なこと。それは、この積立を「自分の意思」に頼らないことだ。 証券口座で、給与振込の直後に、一定額が自動で引き落とされ、投資信託が買い付けられるよう設定する。あとは、その存在を「忘れる」のだ。
人間の意志は弱い。市場が暴落すれば、恐怖で売りたくなる。市場が好調なら、もっと儲けたいと欲が出る。その感情の波に、僕たちは勝てない。 だからこそ、感情が入り込む隙のない、「仕組み」にすべてを委ねるのだ。
③ 「増やす」と思うな。「寝かせる」と思え
投資と聞くと、「お金を増やして儲ける」というイメージが強いかもしれない。しかし、その考え方は、時に僕たちを苦しめる。 僕は、こう考えるようにしている。 この積立投資は、「今、使わないお金を、インフレしない場所に、ただ寝かせておくだけ」なのだと。
この「寝かせる」という感覚は、日々の株価の変動から、僕たちの心を自由にしてくれる。10年、20年という長い冬眠から覚めた時、それは僕たちが想像する以上の姿に育っているはずだ。
今日の一歩が、10年後のあなたを創る
38歳、貯金ゼロからの再起。 それは、決して楽な道ではない。しかし、不可能では断じてない。
転職で収入を上げ、価値観で支出を最適化し、残ったお金を、無心で、自動的に、未来の自分へ送り続ける。
この、あまりにも地味で、退屈なサイクルの先にしか、僕たちの望む未来はない。
今、積立投資を続けているあなたも、時に迷うことがあるだろう。「本当に、このままでいいのか?」と。 その時は、思い出してほしい。僕のような、ごく普通のサラリーマンでも、この道を歩き続けた結果、確かに人生が変わったという事実を。
過去を嘆く時間は、もう終わりだ。 大切なのは、今日、この瞬間から、小さな、しかし確実な一歩を、踏み出すこと。 その一歩の積み重ねだけが、10年後のあなたを、今のあなたが想像もしなかった場所へと、連れて行ってくれるのだから。