その恐怖は、静かに、しかし確実にやってくる
「老後貧乏」 この言葉を聞いて、あなたはどんな未来を想像するだろうか。切り詰めた食費、我慢の連続、そして「もっと若い頃に、何かしておけばよかった」という、取り返しのつかない後悔。
多くの人にとって、それはまだ遠い未来の話かもしれない。「今は目の前のことで精一杯だ」「給料が上がったら、いつか考えよう」。そうやって、僕たちは人生で最も重要な問題から、目をそむけてしまいがちだ。
しかし、僕は断言する。 あなたの老後が豊かになるか、貧しくなるかの勝負は、60歳になってから始まるのではない。それは、あなたが20代、30代の今、この瞬間をどう生きるかによって、その9割が決まっているのだ、と。
この記事は、特別な才能があったわけでも、莫大な遺産があったわけでもない、ごく普通のサラリーマンである僕が、いかにして「老後貧乏」という恐怖から自由になり、数年後のFIRE(経済的自立と早期退職)を現実的な射程に捉えることができたのか、その具体的な戦略と、根底にある哲学のすべてを記したものである。
これは、誰にでも真似できる「型」ではないかもしれない。しかし、その根底にある「態度」は、きっとあなたの人生を変える、強力な武器になるはずだ。
第一章:すべての始まりは、たった一つの問いだった
僕の人生戦略の原点は、常に一つの問いにある。 「自分は、誰にも縛られずに、何をして生きていたいのか?」
この問いこそが、僕の人生のコンパスだ。多くの人が「老後資金」を、ただ漠然とした不安を解消するための「数字」として捉えている。しかし、それでは決して長続きしない。なぜなら、そこには魂を揺さぶる「目的」がないからだ。
僕にとっての資産形成は、単なる貯蓄ではない。それは、僕が最も大切にする価値観——「自由・自律・納得感」——を手に入れるための、極めて戦略的なプロジェクトなのだ。
- 自由: 会社や組織に依存せず、自分の時間を自分でコントロールできる状態。
- 自律: 誰の指示も受けず、自分の責任で人生の意思決定を下せる状態。
- 納得感: 他人の評価のためではなく、自分自身が「これでいい」と深く頷ける人生を送ること。
この「理想の未来」という名の北極星があるからこそ、日々の地味な積み重ねは、苦行ではなく、目的地へと向かうエキサイティングな航海になる。あなたもまず、自分だけの北極星を見つけることから始めてほしい。
第二章:僕が実践してきた、老後貧乏を回避するための「5つの自己資本」
理想の未来を描いただけでは、現実は変わらない。僕は、その未来を手に入れるために、5つの領域で、意識的に「自己資本」を積み上げてきた。
① 収入資本:稼ぐ力と、投資する仕組みの両輪を回す
まず、現実として、資産形成には原資が必要だ。僕は幸運にも、努力と偶然が重なり、年収1000万円という一つのラインに到達することができた。しかし、重要なのは金額の多寡ではない。「稼ぐ力を高め続ける努力」と「稼いだお金を自動で働かせる仕組み」の両輪を回すことだ。
- 高年収戦略: 常に自分の市場価値を意識し、学び続け、必要であればより良い条件を求めて転職する勇気を持つ。
- 資産形成戦略: 給料が振り込まれたら、先に一定額が投資に回る仕組みを構築する。僕の場合は、新NISA(成長投資枠・積立投資枠)、旧つみたてNISA、特定口座、そして企業型確定拠出年金(DC)をフル活用している。投資先は、米国の高配当ETF(VYM)とインデックス(S&P500)という、再現性の高い堅実なポートフォリオだ。
この「収入」と「投資」という二つのエンジンを全力で回し続けること。これが、経済的自立への最短ルートだ。
② 制度資本:国が用意した“ボーナスステージ”を遊び尽くす
日本という国は、実は個人が資産形成をする上で、非常に有利な制度をいくつも用意してくれている。NISAや確定拠出年金(iDeCo、企業型DC)といった税制優遇制度だ。
これらを使わないのは、RPGゲームで、経験値が2倍になるボーナスステージを、みすみす見送るようなものだ。
- NISA: 投資で得た利益が非課税になる、最強の制度。僕は新旧のNISA枠をすべて埋めることを最優先に考えている。
- 確定拠出年金: 掛け金が所得控除の対象となり、節税しながら老後資金を準備できる。
これらの制度を骨の髄までしゃぶり尽くすこと。それは、国というプラットフォームの上で、最も賢くプレイするための基本戦略である。
③ 健康資本:最大の資産は、あなたの身体である
どんなに莫大な金融資産を築こうとも、健康を損なってしまえば、その価値は半減する。僕は過去に「群発頭痛」という壮絶な痛みを経験し、健康こそがすべての土台であることを骨の髄まで思い知らされた。
だから、僕は健康を「コスト」ではなく「最重要投資先」と位置づけている。
- 予防への投資: シングリックスのような高価なワクチンも、将来の医療費とQOL(生活の質)を考えれば、安い投資だ。
- 維持への投資: 整体、ジム、サプリメントに月5万円を投じる。これは、僕の身体という、最も重要な資産の価値を維持するための、必要経費だ。
- 三大欲求への投資: 質の良い睡眠、美味しく栄養のある食事、そして健全な性の解放。これらを我慢して切り詰めることは、長期的には必ず心身のパフォーマンスを低下させ、大きな損失に繋がる。
老後貧乏のリスクとは、お金がなくなることだけではない。動けない身体で、ただ生き長らえることのリスクこそ、僕たちは真に恐れるべきなのだ。
④ 知的資本:学び続け、自分をアップデートし続ける
終身雇用が崩壊した現代において、最も不安定なのは、単一の会社にしか通用しないスキルに依存することだ。僕が今、多額の費用を投じてMBAに通っているのも、この「知的資本」を積み上げるためだ。
- 学びによる再武装: 時代がどう変わろうとも、学び続け、新しいスキルを身につけていれば、収入が途絶えるリスクを極限まで減らすことができる。
- “飽きない老後”の準備: 知的好奇心を持ち続けることは、単なる蓄財では得られない、人生の後半を豊かにする最高のスパイスになる。
本当の安定とは、銀行口座の残高ではなく、あなたの頭の中にこそ宿るのだ。
⑤ 時間資本:「体験」こそが、人生の本当の資産
そして、最後に。僕が何よりも大切にしているのが、「時間」という、唯一無二の資本だ。 お金は、失ってもまた稼ぐことができる。しかし、失われた時間は、二度と戻らない。
だからこそ、僕は浪費を嫌い、「人生の充実」に直結する“体験”にこそ、お金と時間を使う。
- 人生リストの作成: 趣味、快楽、学び、旅。自分が本当にやりたいことを言語化し、構造的に整理する。
- 「自分の時間」の死守: 無駄な会議や付き合いを戦略的に避け、自分が価値を感じる体験に、有限な時間を集中投下する。
豊かな老後とは、ただお金があるだけの生活ではない。振り返った時に、「ああ、最高の人生だった」と心から思えるような、豊かで、手触りのある記憶の集積。それこそが、僕たちが目指すべき、本当の資産なのではないだろうか。
あなたの人生のCEOは、あなただ
僕がやってきたことは、突き詰めれば、「自分自身の人生の、最高経営責任者(CEO)になる」という、ただ一点に尽きる。
自分の価値観(ビジョン)を明確にし、収入・制度・健康・知性・時間という5つの資本を、そのビジョンの実現のために、戦略的に配分し続ける。
あなたは、あなたの人生のCEOだ。 今、苦しい状況にあるかもしれない。しかし、嘆いていても現実は変わらない。
まずは、自分の感情を言語化することから始めよう。 次に、1日1ミリでもいい、学びを始めよう。 そして、自分だけの「快」を見つけ、それを大切に育てていこう。
それは、地味で、時間のかかる作業だ。 しかし、その一歩だけが、確実に、あなたの未来を変える力を持っている。
老後貧乏は、自己責任論ではない。しかし、未来の自分を救えるのは、今のあなたしかいないのだ。さあ、あなただけの、最高の人生をデザインしようじゃないか。