僕の成功は、半分以上が「運」でできている
まず、僕自身の話をさせてほしい。
僕は今、幸運なことに、世間一般で言えば「高年収」と呼ばれる企業に勤め、経済的には安定した、順風満帆な人生を送っている。しかし、この現状を、僕自身の努力や才能だけで手に入れたと言うつもりは、毛頭ない。
中学時代の原体験、親の経済的な支援があった大学受験、大きな失敗なくキャリアを積めた偶然、そして、素晴らしいパートナーと出会えた幸運。僕の人生は、無数の「運」と「他者の支援」という、細い糸が奇跡的に織りなすタペストリーのようなものだ。
だから、もし今、苦しみの渦中にいるあなたが「あなたのようになりたい。どうすれば、その人生を再現できますか?」と問うなら、僕の答えは、残酷なまでにシンプルだ。
「僕の人生の“型”は、残念ながら、誰にも再現できません」と。
しかし、話はここで終わりではない。 人生のイベントや結果そのものは再現できなくても、その幸運を掴み取り、逆境を乗り越えるために僕が意識的・無意識的に培ってきた「OS(オペレーティングシステム)」、すなわち「物事と向き合う態度」なら、きっとあなたの役に立つはずだ。
この記事は、成功のレシピを語るものではない。暗闇の中で、自分だけの地図を描き始めるための、コンパスの作り方についての話だ。
第一章:「型」を真似るな。「態度」をインストールせよ
僕たちは、成功した人の「型」を真似しようとしがちだ。「あの人と同じ大学に行けば」「あの人と同じ会社に入れば」「あの人と同じ投資をすれば」…。しかし、それは、他人の地図で、見知らぬ土地を歩くようなものだ。スタート地点も、天候も、持っている装備も違うのだから、遭難するのは当たり前だ。
本当に再現すべきは、その人がどんな地図を読み、どんな天候でも前に進むために身につけてきた、根源的な「態度」なのだ。僕が、自分の人生を振り返り、これだけは誰にでも再現可能だと信じられる「4つの態度」を紹介したい。
態度①:「言語化」という名の松明(たいまつ)
苦しみや不安は、霧のように、正体不明のまま僕たちの心を覆い尽くす。この霧の中で、ただ立ち尽くしているのが、最も危険な状態だ。
僕が意識的に行ってきたのは、この正体不明の感情に「名前をつける」という作業だ。 「今、何が苦しいのか?」「なぜ、自分は焦っているのか?」
その答えを、誰に見せるでもないノートに、スマホのメモに、あるいは僕のようにブログやChatGPTに、ただ書き出してみる。言葉になった瞬間、霧は晴れ、感情は「対処可能な課題」に変わる。「言語化」とは、暗闇を照らす、一本の松明なのだ。
態度②:「1日1ミリの学び」という名のワクチン
「学ぶ意欲がすごいですね」と言われることがあるが、僕自身は、自分のことを勉強好きだとは思っていない。むしろ、僕を突き動かしているのは「知らないまま生きるのは、あまりにも無防備で怖い」という、一種の恐怖心だ。
だからといって、毎日何時間も勉強する必要はない。 1日1ページだけ本を読む。通勤中に、10分だけYouTubeの教養チャンネルを観る。知らない言葉を一つだけ調べる。その「1日1ミリ」の学びが、1年後には36.5センチの、無視できない前進になる。これは、未来の不確実性に対する、最も安価で、最も効果的なワクチンだ。
態度③:「完璧を待たない」という名の勇気
「準備が整ったら始めよう」と考えているうちは、永遠にその日は来ない。僕の人生を振り返れば、転職も、投資も、結婚や子育ても、すべてが「見切り発車」だった。
完璧な計画など、存在しない。大切なのは、「まず小さく動いてみて、その結果を見ながら、軌道修正していく」という姿勢だ。傷が浅いうちに失敗し、そこから学ぶ。このサイクルを高速で回せるかどうかが、停滞から抜け出すための鍵となる。
態度④:「自分と対話する」という名の誠実さ
僕たちは、他人と対話する方法は学んでも、自分自身と対話する方法は、誰も教えてくれない。自分の内側にある、厄介で、時に矛盾した感情(金銭欲、性欲、承認欲求、嫉妬心…)から、目をそむけてしまいがちだ。
しかし、僕が最も大切にしてきたのは、この「自分との対話」だ。 自分は何を快いと感じ、何を不快と感じるのか。何を心の底から求めているのか。その声に、誰よりも誠実に耳を傾ける。この自己理解の深さこそが、他人の価値観に振り回されず、「自分だけの納得感」に満ちた人生を築くための、すべての土台となる。
第二章:地獄の底で、最初にすべき「3つのこと」
ここまで読んで、「理想はわかるが、今、そんなエネルギーはない」と感じた人もいるかもしれない。その感覚は、非常によくわかる。苦しみの渦中にいる時、人は正常な思考も、行動もできなくなるものだ。
だから、もしあなたが今、どん底にいると感じるなら、先ほどの4つの態度は、一旦忘れてくれていい。代わりに、生存確率を上げるための、ごく簡単な「応急処置」を3つだけ試してみてほしい。
応急処置①:感情を、ただ書き出す
「苦しい」と、一言だけ紙に書く。それだけでいい。評価も、分析も、解決策もいらない。ただ、心の中の混沌を、外に出す。これだけでも、溺れそうな心が、ほんの少しだけ軽くなる。
応急処置②:1ミリの「快」を取り戻す
幸福や快楽は、大きな出来事の中にあるのではない。それは、日常の些細な「快」の積み重ねだ。 近所の銭湯に浸かってみる。好きな音楽を、一曲だけ真剣に聴いてみる。一人カラオケで、大声を出す。美味しいコーヒーを、ゆっくりと味わう。 「ああ、心地いいな」と感じる瞬間を、意図的に取り戻すこと。それが、生きる気力を取り戻すための、最初のリハビリになる。
応急処置③:「学び」と「整え」を掛け算する
成長とは、「学ぶこと(頭)」と「整えること(心と体)」の掛け算でできている。どちらか一方だけでは、車輪はうまく回らない。 だから、何か一つ「学ぶ」行動(読書など)をしたら、何か一つ「整える」行動(睡眠、散歩など)もセットで行う。このバランスが、持続可能な回復と成長のサイクルを生み出す。
あなたは、あなたの土を耕せばいい
人生には、確かに「運」という、自分ではコントロールできない天候のようなものが存在する。僕の人生には、幸運な雨が多く降った。
しかし、どんなに恵みの雨が降ろうとも、土が固く、種が蒔かれていなければ、そこには雑草が生えるか、ぬかるみができるだけだ。 「態度」を整えるとは、この「自分という名の土壌を、来るべき雨に備えて、日々耕しておく」という作業に他ならない。
僕の人生が変わったのは、いつも、自分の中の「小さな違和感」に、真剣に目を向けた時だった。 「このままでいいのか?」という、か細い声。 その声から逃げずに、言葉を与え、小さく動き出す。
それは、本当に地味で、誰にも褒められることのない、孤独な作業だ。 しかし、その一歩だけが、確実に、あなたの未来を変える力を持っている。
僕の人生は、あなたには再現できない。 それでいいのだ。 あなたは、あなただけの土を耕し、あなただけの花を咲かせればいいのだから。