
あなたの「やる気」は、なぜ3日と持たないのか?
「今年こそは、筋トレを習慣にしよう」
新年の誓い、夏前の焦り、健康診断の結果への恐怖。 僕たちは、人生で幾度となく、そう決意する。ジムに入会し、真新しいウェアを買い揃え、初めの数日間は、燃えるような「やる気」に満ち溢れている。
しかし、その炎は、なぜ、いつもあっけなく消え去ってしまうのだろうか。 気づけば、ジムの会員証はただの身分証と化し、ダンベルは部屋の隅で、埃をかぶったオブジェになっている。
かつての僕も、この「三日坊主」という名の、終わりのないループに、囚われていた一人だ。 「美女のポスターを貼れば、やる気が出るはずだ」 「毎日30分、必ずやる、と自分と“約束”しよう」 しかし、その全ては、無惨に失敗した。
そして、その失敗の山の中で、僕は、一つの、身も蓋もない真実に、たどり着いた。 人間は、本質的に、自分との約束を、いとも簡単に破る、怠惰な生き物なのだ、と。
この記事は、そんな僕が、いかにして「モチベーション」や「意志の力」といった、この世で最も信頼できないエネルギー源に頼ることを、きっぱりと諦めたか。そして、その代わりに、面倒くさがりな人間でも、淡々と、そして確実に、筋トレを継続できてしまう「システム」を、どうやって、自らの生活に構築したかについての、全記録である。
その“やる気”、ゴミ箱へ。- モチベーションという名の、最も不安定な燃料
まず、僕たちが最初に捨てるべき、最大の幻想。 それは、「モチベーションを上げれば、継続できる」という、自己啓発書が、僕たちに囁き続ける、甘い嘘だ。
モチベーションとは、何か。 それは、天候のように、移ろいやすく、コントロール不可能な「感情」の一種に過ぎない。 その、刹那的で、気まぐれな感情を、長期的な習慣の「燃料」にしようとすること自体が、根本的な設計ミスなのだ。それは、雷のエネルギーだけで、都市の電力を賄おうとするような、あまりにも無謀な試みだ。
意志の力は、いずれ尽きる。やる気は、いずれ、なくなる。 それが、僕たち人間の、初期設定なのだ。 では、どうすればいいのか。 答えは、「意志や、やる気が、一切なくても、身体が勝手に動いてしまう“仕組み”を作る」。ただ、それしかない。
「習慣」ではなく「クセ」と呼べ。- 筋トレを“歯磨き”のレベルにまで、ハックする
僕たちが目指すべきは、「筋トレを、良い“習慣”にしよう」などという、高尚な目標ではない。 もっと、レベルの低い、「筋トレを、無意識の“クセ”にしてしまう」ことだ。
足を組むクセ、髪を触るクセ、頬杖をつくクセ。 僕たちは、これらの行動に、いちいち「やるぞ!」と、モチベーションを奮い立たせたりはしない。それは、思考を介さず、身体が勝手に行う、ただの「反射」だ。
筋トレを、このレベルにまで、ハックすること。 それこそが、最強の継続術なのだ。 そのために、僕が実践している、4つの「システム設計」を紹介しよう。
僕が構築した「筋トレ自動化」のための、4つのシステム
これは、精神論ではない。面倒くさがりな自分を、強制的に動かすための、極めて具体的な「行動デザイン」の話だ。
① “起動エネルギー”を、限りなくゼロにせよ
物事を始める上で、最もエネルギーを消耗するのが、「取り掛かるまで」の、あの、どうしようもない面倒くささだ。 僕たちの戦略は、この「起動エネルギー」を、徹底的に、限りなくゼロに近づけることにある。
- ジムは、家から最も近い場所、あるいは、通勤経路の途中にある場所を、絶対に選ぶ。「移動が面倒」という、最大の言い訳を、物理的に潰す。
- ジムのロッカーに、ウェア、シューズ、タオルなど、全てを置きっぱなしにする。「準備が面倒」という、第二の言い訳を、完全に封じる。
- 家でトレーニングするなら、ダンベルやマットは、決して片付けない。常に、視界に入る場所に、出しっぱなしにしておく。
そして、「ジムに行くだけ」「ウェアに着替えるだけ」と、自分を騙すのだ。 一度、その状態になってしまえば、僕たちの脳は、「せっかくここまでやったんだから」と、次の行動へと、勝手に移行してくれる。
② “不動の習慣”に、鎖でつなげ
新しい習慣を、単体で成立させようとするのは、素人のやることだ。 僕たちプロの面倒くさがりは、「歯磨き」や「仕事」といった、絶対にサボることのでこない“不動の習慣”に、新しい習慣を、強力な鎖で、繋ぎとめる。
僕のルールは、こうだ。 「仕事が終わったら、1秒も間を置かずに、ジムに行く」
仕事が終わって、ソファに座ってしまえば、もう終わりだ。スマホを開いてしまえば、ゲームオーバーだ。 そうなる前に、「仕事→ジム」という流れを、一つの、連続した行動として、身体に覚え込ませる。「考える暇」を、自分に与えないのだ。
「歯を磨いたら、腕立てを10回やる」 「風呂から上がったら、ストレッチをする」 この、「Aをしたら、Bをする」という、シンプルなプログラムを、ただ、繰り返せ。
③「自信」の、順番を、ひっくり返せ
「筋トレすれば、自信がつく」 これもまた、多くの人が陥る、致命的な思考の罠だ。なぜなら、自信がつくほどの身体の変化が訪れる前に、99%の人間は、挫折するからだ。
発想を、逆転させろ。 「自信がある人間が、筋トレをする」のだ。
ジムで、鏡を見ながら、恍惚とした表情でトレーニングしている人々を、思い出してほしい。彼らは、自信がないから、鍛えているのではない。彼らは、自分に自信があるからこそ、自分を高めるという、快感を知っているのだ。
「でも、自分には、自信なんてない」 そう思うだろうか。 嘘をつけ。どんな人間にだって、一つくらい、誇れるものはあるはずだ。
仕事のスキルでも、ゲームのプレイ時間でも、これまでに口説いてきた女性の数でも、何でもいい。まずは、その、ささやかな自信を、無理やりにでも、認めろ。そして、「こんなにカッコいい俺が、自分の身体を、ないがしろにしていいはずがない」と、自分に言い聞かせるのだ。
自信が、行動を生む。行動が、結果を生む。結果が、さらなる自信を生む。 この、正のスパイラルを回すための、最初のエンジンは、君が、すでに持っている。
④ “不純な動機”という、最強の保険を用意しろ
システムを完璧に構築しても、それでも、どうしても、サボりたくなってしまう日は、来る。 そんな時のために、僕たちは、最後のセーフティネットとして、「不純な動機」という名の、強力な“保険”を、用意しておく。
僕の場合、それは「食欲」だ。 「今日は、どうしても、あの店の、背脂たっぷりのラーメンが食いたい。しかし、あのラーメンを、罪悪感なく食す権利を得るためには、まず、ジムで、カロリーを消費するという“儀式”を、済ませなければならない」
この、「最高の報酬」を、トレーニングの先にぶら下げておくことで、僕の重い腰は、不思議と、軽くなる。
「ジムに行けば、あの可愛いスタッフさんに会える」 そんな、不純な動機でも、もちろん、いい。 パーソナルトレーナーを雇い、「お金をドブに捨てるわけにはいかない」という、強迫観念を利用するのも、賢い手だ。
結論:意志あるところに、システムを
僕たちが、何かを継続できないのは、僕たちの「意志」が、弱いからではない。 僕たちの「意志」というものが、そもそも、そういう風に、できているからだ。
だから、もう、自分を責めるのは、やめにしよう。 根性や、精神論という名の、古いOSに、頼るのも、やめにしよう。
大切なのは、怠惰で、誘惑に弱い、どうしようもない自分を、そのまま受け入れること。 そして、そんな自分ですら、望むべき行動を、勝手にとってしまうような、賢い「システム」を、自らの手で、デザインすることだ。
あなたの意志は、あなたを裏切る。 しかし、優れたシステムは、決して、あなたを裏切らない。
さあ、自分を改造するのは、もう終わりだ。 今日からは、君の「環境」を、そして「仕組み」を、ハッキングし始めようじゃないか。