その“頑張り”、本当に報われていますか?
「真面目に働いていれば、いつか報われる」 「努力は、決して裏切らない」
僕たちは、そんな美しい言葉を信じて、日々デスクにかじりつき、身を粉にして働いている。しかし、僕はあなたに、少しだけ残酷な、しかし目をそらすべきではない一つの問いを投げかけたい。
「あなたの会社の、10年上の先輩の年収を、想像したことがありますか?」
なぜなら、その数字こそが、極めて高い確率で、あなたの10年後の年収だからだ。その未来の給与明細に、あなたは心から「納得」できるだろうか。その金額は、あなたが捧げる10年という、かけがえのない時間に見合う対価だろうか。
もし、その問いに少しでも胸がざわつくのなら、この記事は、あなたのためのものだ。これは、僕が30歳の時に、自らの未来に絶望し、大きなリスクを取って人生のレールを切り替えた結果、何を手に入れたのかについての、生々しい記録である。
第一章:僕が30歳で見た“未来の給与明細”
かつて、僕はとある中小企業で経理として働いていた。仕事は安定しており、人間関係も悪くない。しかし、僕の心は常に、漠然とした不安の霧に覆われていた。
経理という仕事柄、僕は社員の給与を、知りたくなくても知ってしまう立場にあった。そして、ある日、僕の目に飛び込んできた数字が、僕の人生を大きく動かすことになる。
それは、僕が尊敬していた、55歳の部長の給与だった。 その金額は、年収600万円〜700万円。会社の平均年収は500万円程度。
僕は、愕然とした。 これが、この会社で誠実に働き、忠誠を誓い、部長という一つの頂にたどり着いた人間の、20年後、30年後の姿なのか、と。
もちろん、生きていけない金額ではない。しかし、東京で家族を養い、子どもを育て、ささやかな豊かさを求めるには、あまりにも厳しい数字だった。僕の目には、その給与明細が、僕自身の「25年後の未来予想図」として、残酷なまでにリアルに映ったのだ。
そして、もう一つの恐怖が僕を襲った。それは、「この会社で、ずっと同じ仕事をやり続けること」そのものへのリスクだ。もっと仕事の幅を広げ、自分の市場価値を高めなければ、いつかこの会社という船が傾いた時、僕はなすすべもなく、共に沈んでいくしかない。
その日、僕は決意した。この、あらかじめ決められた未来から、脱出しよう、と。
第二章:日本で働くということの不都合な真実 - “どこで”努力するかが全てを決める
僕の30歳での転職は、一種の賭けだった。当時は今ほどOpenWorkのような口コミサイトの情報も豊富ではなかったが、僕はとにかく、年収水準が高そうな会社へと飛び込んだ 。
入社当初の年収は、それほど劇的に上がったわけではない。しかし、僕はそこで、ひたすらに努力を続けた。そして、約10年が経った今、僕の年収は1000万円の大台に届こうとしている。
この経験を通じて、僕は日本社会におけるキャリア形成の、一つの不都合な真実を確信した。 それは、「何をやるか」以上に、「どこでやるか」が、あなたの年収を決定づける、という事実だ。
例えば、僕がやっている「経理」という仕事。その業務内容は、中小企業だろうと、大企業だろうと、本質的には大きく変わらない。しかし、働く会社が違うだけで、その報酬は平気で倍以上変わる。
もし、僕があの時、転職というリスクを取らず、居心地の良い中小企業に居続けていたら。今の僕の年収は、間違いなく、現在の半分程度だっただろう。同じだけの努力を、同じだけの時間を捧げていたとしても、だ。
努力は、裏切らない。しかし、それは「正しい場所」でなされた努力に限る。間違った場所で、いくら懸命に穴を掘り続けても、そこに水脈は永遠に現れないのだ。
第三章:リスクを取らないことが、最大のリスクである
「でも、転職にはリスクがある」 その気持ちは、痛いほどわかる。新しい環境、不確かな人間関係、そして、今よりも状況が悪化する可能性。
しかし、僕は問いたい。 「何もしないこと」は、本当にノーリスクなのだろうか?
僕に言わせれば、現状維持こそが、この変化の時代における最大のリスクだ。 あなたのスキルは陳腐化し、会社の業績は傾き、そして、あなたの市場価値は、気づかぬうちにゼロになっているかもしれない。
リスクとは、行動することによってのみ生まれるものではない。行動しないことによって、静かに、しかし確実に、あなたの未来を蝕んでいくのだ。
僕が大切にする「自律」という価値観は、自分の人生のハンドルを、自分で握るということだ。会社という、他人が運転する船に、ただ身を委ねるのではない。たとえ嵐が来ようとも、自分の意思で、自分の行きたい方向へと、舵を切る覚悟を持つことだ。
転職はしなくていい。ただ、“市場”にだけは、立ち続けろ
ここまで読んで、「今すぐ転職しろ」という話だと思ったかもしれない。しかし、僕が本当に伝えたいのは、少し違う。
転職は、しなくてもいい。しかし、自分を「転職市場」という名のマーケットに置き続けることは、絶対にやめてはいけない。
BizReachやリクルートエージェントのような転職サービスに、ただ登録しておく 。それだけでいい。
そうすることで、あなたは初めて、自分が所属する「村」の中での評価ではなく、社会全体から見た、自分という“商品”の客観的な価値を知ることができる。
どんな企業が、どんなスキルを持つ人材を、どれくらいの報酬で求めているのか。その生々しい情報に触れ続けること。それこそが、あなたのキャリアの羅針盤を、常に最新の状態にアップデートし続ける、唯一の方法なのだ。
もしかしたら、あなたは今の会社が、自分にとって最高の場所だと再確認するかもしれない。それもまた、素晴らしい発見だ。 あるいは、僕のように、全く新しい可能性の扉が開かれるかもしれない。
大切なのは、選択肢を持つこと。そして、いつでも選べるという、精神的な余裕を持つことだ。
あなたの10年は、あまりにも貴重だ。 その価値を、他人に決めさせてはいけない。 正しい場所を見つけ、あなたの正しい努力が、正しく報われることを、心から願っている。