人生論

人生の“後半戦”を最高にするために。僕が40歳を前にして作り始めた「やらないことリスト」

2025年8月17日

あなたの時間は、あと何回残っているか?

20代の頃、僕にとって「時間」とは、無限に湧き出る泉のようなものだった。使うことをためらう必要のない、潤沢な資源。週末は、ただ目的もなく「消費」され、明日が来ることへの疑いなど、微塵もなかった。

しかし、30代も後半に差し掛かった今、僕の時間感覚は、劇的に変わった。 それは、まるで砂時計の砂が、目に見えて落ちていくのを、ただ見つめているかのような感覚だ。

  • 親と会える回数は、あと何回だろうか?
  • 子どもが「遊んで」と言ってくれる季節は、あと何回だろうか?
  • 心から感動するような本や映画に、あと何作出会えるだろうか?

人生の残り時間を「回数」で数え始めた時、僕は、一つの揺るぎない事実に気づいた。 僕たちの人生で、本当に希少な資源は、お金ではない。それは、二度と取り戻すことのできない「時間」なのだ、と。

そして、この最も貴重な資産を守り、その価値を最大化するために、僕たちが身につけるべき最も重要なスキルは、「To-Doリスト」を上手にこなすタイムマネジメント術などではない。 それは、「やらないことリスト」を、自らの意思で作り上げる、静かなる“覚悟”なのである。


第一章:「足し算」の罠 - 僕が30代まで、無駄にし続けたもの

なぜ、「やること」より「やらないこと」が重要なのか。 それを語る前に、かつての僕がいかに「足し算」の思考に囚われ、貴重な時間を浪費してきたかを、正直に告白したい。

  • 義理と付き合いの飲み会: 断れば角が立つかもしれない、という恐怖心から、気の進まない飲み会に参加し、当たり障りのない会話に、貴重な夜を捧げていた。
  • SNSの無限スクロール: 他人のキラキラした人生を、目的もなく眺め続け、羨望と自己嫌悪という、何の生産性もない感情に、精神を消耗させていた。
  • 目的のない自己啓発: 「これを学べば、何かの役に立つかもしれない」という漠然とした不安から、流行りのビジネス書やスキルに次々と手を出し、結局何も身につかないまま、時間を浪...費していた。

これらの行動の根底にあったのは、「もっと多くを知れば、もっと多くの人と繋がれば、もっと多くのことをやれば、自分の人生は豊かになるはずだ」という、「足し算の幻想」だった。 しかし、その結果、僕のスケジュール帳は埋まっていったが、僕の心は、むしろ空っぽになっていったのだ。


第二章:なぜ「引き算」は、人生を豊かにするのか

「To-Doリスト(やることリスト)」は、僕たちを勤勉にしてくれる。しかし、同時に、僕たちを際限のないタスクの奴隷にする、危険なツールでもある。なぜなら、やろうと思えば、やるべきことなど、無限に見つかってしまうからだ。

一方で、「Not-To-Doリスト(やらないことリスト)」は、僕たちに「自由」「集中」をもたらしてくれる。

それは、あなたの人生という庭園から、雑草を抜き取る作業に似ている。 雑草(=価値観に合わない行動)を抜き取ることで、あなたが本当に育てたい美しい花(=本当にやりたいこと)に、十分な太陽の光と、栄養(=時間とエネルギー)を、注ぐことができるようになるのだ。

「やらないこと」を決めるという行為は、一見するとネガティブな「引き算」に見える。しかし、その本質は、人生で最も重要なことに、最大のリソースを投下するための、極めてポジティブで、戦略的な「選択と集中」なのである。


第三章:僕の「やらないことリスト」- 人生のノイズを消すための、具体的な実践

では、僕が実際に、どのような「やらないこと」を自分に課しているのか。 その一部を、理由と共に公開したい。

  • ① 価値観の合わない飲み会には、参加しない。 人生は短い。僕に残された貴重な夜の時間を、愚痴や自慢話、そして翌朝の二日酔いと交換するのは、あまりにも割に合わない取引だ。断る勇気は、自分の時間を守るための、最初の、そして最も重要な一歩である。
  • ② 他人のSNSを、目的なく眺めない。 他人の人生は、他人のものだ。その断片的な情報に、心を揺さぶられる必要はない。僕が比較すべきは、他人ではなく、「昨日の自分」だけだ。
  • ③ 見栄のための消費は、一切しない。 誰かに「すごい」と思われるために、モノを買わない。僕がお金を払うのは、僕自身の「納得感」と、心揺さぶる「体験」に対してのみだ。
  • ④ 睡眠時間を、絶対に削らない。 睡眠は、すべてのパフォーマンスの土台となる、最も重要な自己投資だ。睡眠を削って何かを生み出そうとするのは、家の土台を削って、家具を買うような、愚かな行為である。
  • ⑤ 気乗りしない頼まれごとには、「NO」と言う。 他人の期待に応え続ける人生は、他人の人生を生きることだ。僕の時間は、僕が「本当に助けたい」と思う人や、「心から貢献したい」と思えることのために使う。

このリストは、僕を縛るためのルールではない。 むしろ、僕を、僕らしくいさせてくれるための、自由への“翼”なのだ。


あなたの時間は、何のためにあるのか?

「やらないことリスト」を作るという行為は、突き詰めれば、「自分にとって、本当に意味のあることは何か?」という、人生で最も重要な問いと、真剣に向き合う、内省のプロセスそのものだ。

雑草を抜き取った、その先で、あなたが本当に育てたい花は、何だろうか。

僕にとっては、それは、

  • 新しい世界を知るための「学び」の時間。
  • 未来の自分を守るための「健康」への投資。
  • 家族や、本当に大切な友人と過ごす、かけがえのない時間。
  • 誰にも邪魔されず、静かに思索にふける、孤独の時間。 だった。

「不惑」とは、人生のすべての答えを知ることではない。 それは、自分にとっての「意味ある問い」を見つけ出し、それ以外の、無数のどうでもいい問いから、自由になることなのかもしれない。

あなたの砂時計の砂は、今この瞬間も、確実に落ち続けている。 さあ、あなたも、自分だけの「やらないことリスト」を作り、人生のノイズを消してみよう。 そうすれば、きっと聞こえてくるはずだ。

あなたが、本当に聞きたかった、あなた自身の、心の声が。

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