
なぜ、資産が増えても“不安”は、消えないのか
「お金さえあれば、幸せになれる」 かつての僕は、そう、信じて疑わなかった。
将来への不安、日々の我慢、そして、人生の選択肢の少なさ。その、すべての苦しみは、銀行口座の残高が増えさえすれば、魔法のように、消え去るはずだと。
そして、僕は、規律と、戦略をもって、十数年という歳月をかけ、資産という名の、小さな“砦”を、築き上げた。 4000万円。 20代の僕が、夢にまで見た、その数字。
しかし、その砦の、城壁の上から、僕が見渡した景色は、想像していたものとは、全く、違っていた。 不安は、消えていなかった。 むしろ、その形を変え、「この、築き上げた資産を、失ってしまうのではないか」という、新しい、そして、より根深い“恐怖”として、僕の心に、巣食い始めていたのだ。
そして、その恐怖は、僕の行動を、奇妙な形で、縛り始めた。 いざ、そのお金を、使おうとすると、僕の心は、「使うなんてもったいない」「もっと、投資に回すべきだ」という、強迫観念にも似た“罪悪感”に、苛まれる。
資産は、増えたはずなのに、僕の、幸福度は、1ミリも、上がっていない。 この記事は、そんな僕が、いかにして、この「資産額と、幸福度の、非対称性」という、資産形成後に、必ず訪れる“次なる壁”と、向き合っているか。その、思考の変遷の、全記録である。
「貯めるスキル」と「使うスキル」は、全く“別物”であるという、不都合な真実
なぜ、僕たちは、このような、奇妙な“病”に、罹ってしまうのか。 その理由は、僕たちが、長年の資産形成の過程で、自らの脳内に、インストールし、そして、完璧にマスターしてしまった、「思考のOS」そのものにある。
「貯める」ために、最適化されたOS
資産を築き上げるために、僕たちが、必要としたスキル。 それは、「引き算」と「未来志向」のスキルだ。
- 無駄な支出を、徹底的に、切り詰める。
- 目先の快楽を、我慢し、未来の安心のために、すべてを、捧げる。
- 「使うこと」=「悪」、「貯めること」=「善」という、強固な、価値観。
この、ストイックなOSがあったからこそ、僕たちは、成功できた。 しかし、問題は、このOSが、あまりにも、強力すぎる、ということだ。
「使う」ために、求められる、全く別のOS
一方で、築き上げた資産を、人生の「幸福」へと、変換するために、僕たちに、求められるスキル。 それは、「貯めるスキル」とは、180度、対極にある。
- 人生を、豊かにする、体験に、勇気をもって、お金を、投じる。
- 未来への、不安ではなく、今、この瞬間の「快楽」を、肯定する。
- 「使うこと」=「幸福への、投資」と、価値観を、書き換える。
そう、僕たちは、気づかなければならない。 「お金を、増やすスキル」と、「お金を、上手に使うスキル」は、全く、別物なのだ、と。 僕たちは、資産形成という、一つのゲームの、黒帯の、達人になった。しかし、その結果、「人生を、楽しむ」という、全く、別のゲームにおいては、どう、動けばいいのかも分からない、ただの、初心者になってしまったのだ。
“罪悪感”から、自分を解放するための、僕なりの「治療計画」
意志の力だけでは、この、長年、染み付いた「節約OS」を、書き換えることは、できない。 僕が、自分自身に、処方したのは、意志に頼らない、“仕組み”と“思考法”による、具体的な「治療計画」だ。
処方箋①:「歓びの予算(ジョイ・バジェット)」を、あらかじめ、設定する
まず、僕は、一年の初めに、一つの、神聖な「予算」を、設定する。 それは、生活費でも、投資資金でもない。 その年の、「僕自身の、人生を、豊かにするための、経験に、投資する」ためだけの、特別な予算だ。
例えば、「総資産の、3%」といったように、明確なルールを、決めてしまう。 そして、この予算の、最も重要な点は、「この予算を、使い切ることが“目標”であり、使えずに、残してしまうことは“失敗”である」と、自分の中で、定義し直すことだ。
この、たった一つの、ルールが、僕の、お金を使うことへの「罪悪感」を、「目標達成」への「喜び」へと、反転させてくれる。
処方箋②:支出を、「消費」から「経験価値への、投資」へと、再定義する
次に、僕たちが、その「歓びの予算」から、支払う、お金の“名前”を、変える。 あれは、消えてなくなる「消費」ではない。 あれは、僕の人生を、生涯にわたって、豊かにしてくれる、「経験価値への、投資」なのだ。
- 旅: 僕の、人生という名の“物語”に、新しい、心躍るページを、書き加えてくれる、「記憶の配当」への、投資。
- 学び: 僕の、世界の解像度を、上げ、未来の選択肢を、広げてくれる、「知的資本」への、投資。
- 健康: 僕の、資本である「身体」の、コンディションを、維持し、未来の医療費を、抑制する、最も、合理的な、投資。
この、「投資」という、視点を持つだけで、僕の、節約OSは、お金を使うという行為に「GOサイン」を、出しやすくなる。
処方箋③:「キャッシュフロー」だけを、使う、という“安全装置”
そして、僕の心を、最も、穏やかにしてくれるのが、この、安全装置だ。 僕が、この「歓びの予算」の、原資として、使っているのは、僕の資産の、元本(キャピタル)では、ない。 僕が、使っているのは、僕の、高配当株ポートフォリオが、毎月、毎年、自動で、生み出してくれる「配当金(キャッシュフロー)」だけだ。
この、「元本には、一切、手をつけず、資産が、生み出した“果実”だけを、味わう」という、ルール。 この、ルールが、僕の、心の奥底にある「資産が、減ってしまう」という、根源的な恐怖を、完全に、無力化してくれる。
結論:君は、“守り人”のままで、人生を、終えたいか?
資産形成という、旅路は、僕たちに、多くのものを、与えてくれる。 経済的な、安定。そして、未来への、安心感。
しかし、その旅路に、あまりにも、長く、没頭しすぎると、僕たちは、いつしか、築き上げた“資産”を守ることだけが、人生の目的であるかのような「守り人」へと、その姿を、変えてしまう。
しかし、僕たちの人生は、城壁の中で、ただ、震えているために、あるのではない。 その、安全な城壁から、一歩、外へ踏み出し、新しい世界を、冒険するために、あるはずだ。
「お金を増やす」という、第一のゲーム。 君が、その、ゲームの、クリア条件を、満たしたのなら。 おめでとう。
しかし、忘れるな。 その先には、「そのお金を使って、いかに、最高の人生を、デザインするか」という、より、難解で、しかし、遥かに、面白い、第二のゲームが、待っている。
さあ、君も、重たい鎧を、脱ぎ捨てよう。 そして、「守り人」から、再び「冒険者」へと、生まれ変わろうではないか。 君の、本当の人生は、いつだって、その、一歩、先にあるのだから。