NISA 高配当株投資

「認知症になったら、このインデックスファンドを売れ」 僕が考える、人生最後の“資産防衛”

最後の敵は、市場ではなく“自分自身”だった

長年、私は投資家として、市場の暴落や経済の低迷といった、外部からの脅威を最大の敵だと考えてきました。その敵と戦うために知識を身につけ、リスクを分散させ、自らの資産という名の砦を必死で守り抜いてきたのです。

しかし40歳を目前にした今、私の心を支配し始めたのは、全く質の違う、新しい恐怖でした。それは、外からやってくる脅威ではありません。私の内側から、そして、未来の私自身からやってくる、決して避けることのできない、最後の敵の存在です。

その敵の名は「自分自身の“衰え”」です。

最近、親の介護と向き合う中で、私はそれを現実として痛感しています。昨日まで明晰だったはずの人間が、いかに呆気なく、そして残酷に、その判断能力の輝きを失っていくかという現実を。

その時、私の脳裏をよぎるのは、一つの冷たい問いです。 「私が人生を懸けて築き上げてきた、この数千万円の資産。もし将来、私自身が認知症になったとしたら、この大切な砦を、誰が、どうやって守るのだろうか?」 「判断能力が衰えた未来の私自身が、詐欺師の甘い言葉に騙され、あるいは、一時の不合理な感情に流されて、このすべてを失ってしまうのではないか?」

この記事は、そんな私が考え抜いた、人生における究極の「リスク管理」についての物語です。それは、市場の暴落から資産を守るのではない。“未来の、愚かな自分”から、“今の、賢明な自分”の資産と尊厳を守り抜くための、私なりの「最終計画」です。

なぜ成功した者ほど危険なのか

私たちがまず直視しなければならないのは、資産形成の「成功」そのものが、人生の最終盤において、最大の「リスク」へと反転する、皮肉な現実です。

資産がない人間は、そもそも詐欺師のターゲットにもなりにくい。しかし、十分な資産を持ち、そして、判断能力が低下した高齢者は、悪意を持った人間にとって、最も魅力的で、そして、最も無防備な“獲物”に他なりません。

私たちがFIREを目指し、手に入れたはずの「経済的自由」。それは、判断能力が衰えた時、「資産を、自由に失うことができる、危険な自由」へと、その顔を変えます。私たちの最大の「成功」が、私たちの最大の「弱点」となるのです。

“未来の自分”に宛てた「申し送り事項」- 私が今、実践する三つの“防衛システム”

では、どうすればいいのでしょうか。 私たちは、「今の、合理的な自分が健在なうちに、未来の、不合理になるかもしれない自分を縛るための“仕組み”」を、あらかじめ設計しておかなければなりません。 私が今、まさに構築している、三つの具体的な防衛システムを、共有したいと思います。

① ポートフォリオを、「究極にシンプル」にする

私の現在のポートフォリオは、「VYM」や「オルカン」といった、複数の金融商品を組み合わせた、それなりに複雑なものです。今の私には、その管理は容易い。しかし、判断能力が衰えた未来の私に、この複雑なポートフォリオを適切に管理できるでしょうか。おそらく、無理でしょう。

だから、私が決めている第一のルール。それは、「もし、自分が、認知症など、判断能力の低下を伴う病気であると診断された瞬間に。私の、すべての個別株やセクターETFは売却し、ただ一つの、全世界株式インデックスファンド(オルカンなど)に、資産を一本化する」というものです。

その後の運用方針は、ただ一つ。 「何も考えるな。ただ、毎年、生活に必要な分だけを、機械的に取り崩せ」 これならば、未来の私が、あるいは私の資産を引き継いだ家族が、判断に迷う余地はありません。複雑性は、判断ミスの温床です。究極のシンプルさこそが、究極の安全装置となるのです。

② 信頼できる「共同操縦士」を、指名しておく

次に、私が準備していること。それは、私という「機長」が操縦不能になった時に、代わりに操縦桿を握ってくれる「信頼できる共同操縦士」を、あらかじめ指名し、その権限移譲の仕組みを、法的に整備しておくことです。

日本には、そのための強力なツールが用意されています。「任意後見制度」や「家族信託」といった制度です。

これらの制度を使えば、私が元気なうちに、「もし、私の判断能力が不十分になった場合は、私の資産の管理と処分を、妻に委任する」という、法的な“契約”を結んでおくことができます。

重要なのは、この「話し合い」を、家族と、“今、この瞬間”から始めておくことです。それは、縁起でもない話ではありません。それは、あなたが、あなたの家族を、どれだけ深く愛し、信頼しているかを示す、最も誠実な「対話」なのです。

③ あなたの“投資哲学”を、文章で遺す

そして、最後の仕上げ。それは、あなたが、なぜ、そのように資産を築き、そして、どのように使ってほしいと願っているのか。その「投資哲学」そのものを、明確な「文章」として、遺しておくことです。

私もまた、私だけの「申し送り事項」を書き始めています。 そこには、

  • 私が、なぜ、長期・積立・分散投資という哲学を、信じるに至ったか。
  • 暴落が来た時に、決して狼狽売りをしてはならないという、私の魂からの叫び。
  • そして、その資産を、私自身の尊厳ある介護のためと、残された家族の幸福のために、どう使ってほしいかという、具体的な願い。

が、記されています。

この、あなたの哲学が込められた「手紙」こそが、あなたがいなくなった後も、あなたの資産が、あなたの意思を受け継ぎ、生き続けるための“憲法”となるのです。

結論:本当の“資産防衛”とは何か

私たちが、人生の後半戦で、本当に向き合うべきリスク。それは、市場の変動などではありません。それは、私たち自身の、避けられない「変化」です。

本当の「資産防衛」とは、市場の暴落から資産を守ることではない。それは、未来の弱くなった自分を、今の強い自分が守り抜くという、時間と世代を超えた、壮大な「愛」の行為なのです。

あなたの資産形成の旅は、あなたの目標額を達成した時に、終わりではありません。 その築き上げた大切な資産を、あなたの人生の最後の瞬間まで、あなたの尊厳と幸福のために、守り抜くための「仕組み」をデザインし終えた時に、初めて、完了します。

さあ、あなたも、その、人生最後の、そして、最も重要なプロジェクトに、今日から、着手しようではありませんか。

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