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「生殺与奪の権を他人に握らせるな」- 冨岡義勇の言葉を、“人生の指針”とすべき理由

2025年8月8日

あの雪の日、僕たちは何を突き付けられたのか

『鬼滅の刃』の冒頭。家族を鬼に惨殺され、唯一生き残った妹・禰豆子もまた、鬼へと変貌してしまう。絶望の淵で、雪の中にひれ伏し、命乞いをする主人公・炭治郎。

その彼の前に現れた鬼殺隊士・冨岡義勇が、冷徹に、しかし魂の奥底に突き刺さるような言葉を放つ。

「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」

あまりにも有名になった、このセリフ。 初めて聞いた時、僕は、単に鬼と戦うための、過酷な世界の心構えだとしか思っていなかった。

しかし、僕自身が社会という名の、時に理不尽で、時に冷徹な現実と向き合う中で、この言葉は、全く違う意味を持って、僕の心に蘇ってきた。

これは、鬼殺の剣士だけのものではない。 会社員として、一人の人間として、この不確実な現代を生き抜こうとする、僕たち自身の“生存哲学”そのものなのだと。

この記事は、冨岡義勇のこの言葉が、いかにして僕の人生のOS(オペレーティングシステム)となり、僕を様々な「見えざる鬼」から守ってくれているかについての、僕なりの解釈である。


第一章:現代社会の“鬼” - 僕たちの「生殺与奪の権」を握る者たち

僕たちの世界に、人を喰らう鬼はいない。しかし、僕たちの人生の主導権を静かに、しかし確実に奪い去っていく「見えざる鬼」は、至る所に潜んでいる。

鬼①:「会社」という名の、絶対的な支配者

僕たちサラリーマンにとって、最も身近で、最も強力な鬼。それは、紛れもなく「会社」というシステムだ。

  • 「生かす」も「殺す」も、会社次第。 給与という、僕たちの生命線を握っているのは、会社だ。業績一つ、上司の評価一つで、僕たちの収入は増減し、リストラという名の“一太刀”で、僕たちの生活は一瞬にして崩壊する。
  • 「与える」も「奪う」も、会社次第。 やりがいのある仕事、自己成長の機会を「与えて」くれるのも会社なら、僕たちの貴重な「時間」と「精神」を、無意味な会議や理不-尽な命令で「奪って」いくのも、また会社だ。

僕たちは、会社に依存すればするほど、自らの「生殺与奪の権」を、その巨大なシステムに、静かに明け渡してしまっているのだ。

鬼②:「他人の評価」という、甘美な麻薬

もう一体、僕たちの心に棲みつく厄介な鬼がいる。それは、「他人の評価」だ。

上司からの賞賛、同僚からの羨望、SNSでの「いいね!」の数。これらの「承認」は、僕たちに快感を与え、自己肯定感を満たしてくれる。

しかし、その甘美な麻薬に溺れれば溺れるほど、僕たちは、自分自身の価値を、自分では決められなくなる。他人の評価という、極めて気まぐれで、コントロール不可能なものに、自分の幸福の「生殺与奪の権」を、両手で差し出しているのと同じことなのだ。


第二章:自分だけの“日輪刀”を鍛える - 主導権を取り戻すための3つの武器

では、これらの強力な鬼から、僕たちはどうやって自分自身を守ればいいのか。 ひれ伏し、命乞いをしても、現実は変わらない。僕たちに必要なのは、自分自身の力で、主導権を取り戻すための「武器」、すなわち、自分だけの“日輪刀”を鍛え上げることだ。

武器①:「市場価値」という名の、折れない刃

会社という鬼と対等に渡り合うための、最も強力な武器。それが、「会社に依存しない、個人の市場価値」だ。

  • 常に学び、スキルを磨き続けること(自己投資)。
  • 自分の価値が、労働市場でどれほどのものかを客観的に知っておくこと(転職活動)。

「いつでも、この会社を辞められる」という、確かな選択肢を持つこと。その刃が、あなたを理不尽な命令から守り、会社との間に、健全な緊張関係と、対等な交渉力をもたらす。会社は、あなたを「生かしも殺しも」できなくなる。なぜなら、あなたには、ここではない別の場所で生きる力があるからだ。

武器②:「経済的自立」という名の、揺るぎない盾

社会や経済という、コントロール不能な鬼の気まぐれから、自分の人生を守るための盾。それが、「経済的自立(Financial Independence)」だ。

  • 収入の一部を、規律正しく投資に回し続けること。
  • 給与所得以外の、複数の収入源(配当など)を育てること。

会社からの給与という、たった一本の生命線に依存する生き方は、あまりにも脆い。自分だけの資産という、揺るぎない盾を築き上げることで初めて、僕たちは、景気の変動や、会社の倒産といった、外部環境の嵐の中でも、自分と家族の生活を、どっしりと守り抜くことができる。

武器③:「内なる納得感」という、最強の呼吸

そして、他人の評価という、最も厄介な鬼を滅するための究極の技。それが、「自分だけの“納得感”という、内なる物差しを持つ」ことだ。

僕が人生で下すすべての判断基準は、ただ一つ。「他人にどう思われるか」ではない。「僕自身が、心の底から、それに納得できるか」だ。

この内なる羅針盤に従って生きる覚悟を決めた時、僕たちは、他人の評価という麻薬から、完全に自由になる。賞賛も、批判も、もはや僕の本質を揺るがすことはできない。なぜなら、僕の価値は、僕自身が決定するものだからだ。


ひれ伏すな。前を向け。

冨岡義勇が、雪の中で泣き崩れる炭治郎に、あの言葉を投げかけたのは、決して彼をいじめるためではなかった。 それは、「自分の人生の主人公は、お前自身だ。他人に運命を委ねるな。立ち上がり、自らの意志で、戦え」という、厳しくも、愛に満ちた、魂の檄(げき)だったのだ。

僕たちが生きるこの世界もまた、時に冷徹で、理不尽だ。 誰も、あなたの人生の責任を取ってはくれない。 会社も、社会も、そして、SNSであなたを賞賛する人々も。

だからこそ、僕たちは、自分だけの刀を鍛え、自分だけの盾を構え、自分だけの呼吸で、立ち上がらなければならない。

生殺与奪の権を、他人に握らせるな。

その覚悟を決めた時、あなたの、本当の人生が、ようやく始まるのだから。

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