人生論

「死ぬまでにやりたいことリスト」が書けない、本当の理由。それは“欲望”の枯渇ではない

2025年8月30日

なぜ僕たちの「やりたいこと」は、20個で尽きてしまうのか

「死ぬまでにやりたいことリストを100個書くと、人生が変わる」

そんな言葉に触発され、ノートとペンを手に取る。 「イタリアに行く」「スカイダイビングをする」「オーロラを見る」…。最初の10個、20個は、驚くほどスラスラと出てくる。まるで、心の奥底に眠っていた欲望が、堰を切ったように溢れ出すようだ。

しかし、その勢いは、すぐに止まる。 ペンは宙を彷徨い、思考は堂々巡りを始める。「あれ…他に、何があっただろうか…?」。そして、20個ほどのリストが並んだノートを前に、僕たちは静かに、そして少しだけ自己嫌悪にも似た気持ちで、こう結論づけてしまうのだ。

「どうやら自分は、それほど多くのことを望んではいないらしい」と。

かつての僕も、そうだった。しかし、それは大きな間違いだ。 僕たちが20個で筆が止まってしまうのは、決して欲望が枯渇しているからではない。それは、僕たちが、人生で最も重要な“問い”を、自分自身に投げかけることを忘れてしまっているからなのだ。

この記事は、単なるリストの書き方ガイドではない。それは、借り物の夢や、世間体のための目標をすべて捨て去り、あなた自身の心の奥底に眠る「本当の欲望」と向き合うための、思考の旅への招待状である。


第一章:なぜ、あなたのリストは「借り物の夢」で埋め尽くされるのか

僕たちが最初に書き出す20個ほどのリスト。その多くは、本当に「あなたの」やりたいことだろうか。

「ハワイでバカンス」「高級腕時計を買う」「タワーマンションに住む」。 それらの夢は、いつか映画で見た光景や、SNSで流れてきた誰かの“理想の人生”が、無意識のうちに刷り込まれた**「借り物の夢」**である可能性はないだろうか。

僕たちは、「何をすべきか」「何を持つべきか」という、外部の価値観にあまりにも無防備だ。その結果、自分の人生をデザインするための、神聖であるはずのリストが、いつしか「世間一般で“良し”とされる体験のショッピングリスト」へと成り下がってしまう。

借り物の夢には、あなた自身の「納得感」が伴わない。だから、心は本当の意味で燃え上がらず、20個も書けば、そのメッキは剥がれ落ちてしまうのだ。


第二章:リストを書く前に、あなたが自問すべき“3つの問い”

では、どうすれば、自分だけの「本当の欲望」にたどり着けるのか。 そのために、僕は、リストを書き始める前に、まず自分自身に「3つの根源的な問い」を投げかけることを習慣にしている。これは、人生という名の、広大な地図を手に入れるための、不可欠な儀式だ。

問い①:「これまでの人生で、心が震えるほど満たされた瞬間は、いつ、どんな時だったか?」

これは、あなたの過去の記憶から、喜びの「源泉」を探し出す作業だ。 海外旅行の解放感か。難しい仕事をやり遂げた達成感か。あるいは、ただ静かに、美しい夕日を眺めていた、穏やかな時間か。 その瞬間の「感情」と、その感情を生み出した「構成要素」を、徹底的に言語化する。この「内省」のプロセスは、あなたが本当に価値を置くものが何かを、雄弁に物語ってくれる。

問い②:「もし、お金と時間の制約が一切なければ、明日の朝から、どんな“一日”を過ごしたいか?」

この問いは、あなたの「理想のライフスタイル」をあぶり出す。 多くの人は、ここで「世界一周旅行」のような非日常を思い浮かべる。しかし、本当に重要なのは、その旅から帰ってきた後の「日常」だ。 朝は何時に起き、誰と、どんな食事をとり、どんな仕事や活動に時間を費やすのか。この「理想の24時間」を具体的に描くことで、あなたは、自分がどんな状態にある時に、最も幸福を感じるのかを知ることができる。

問い③:「人生の最期に、やらなかったことで、最も後悔するのは何か?」

これは、あなたの欲望に「優先順位」をつけるための、究極の問いだ。 僕たちの時間も、エネルギーも、有限だ。その限られた資源を、何に投下すべきか。この問いは、見栄や世間体といったノイズを削ぎ落とし、あなたの人生にとって、本当に「譲れないものは何か」を、鮮明に浮かび上がらせる。


第三章:「人生の棚卸し」としての、リスト作成術

この3つの問いとの対話を終えた時、あなたはすでに、自分だけの人生の羅針盤を手にしているはずだ。そこから先は、具体的なリスト作成のステップへと進む。

① カテゴリーで、思考を広げる

「旅行」「家族」「仕事」「趣味」といったカテゴリー分けは、思考を整理し、広げる上で非常に有効だ。ただし、そのカテゴリーも、前章の問いで見つけた「あなた自身の価値観」に基づいて、カスタマイズしてみよう。 例えば、「学びと成長」「静かな時間」「挑戦と冒険」「貢献と繋がり」といったように。

② あらゆる“解像度”の欲望を、許可する

リストに書き出すのは、壮大な夢だけではない。 「近所の気になっていたカフェで、3時間読書する」 「自分で育てたハーブで、最高のパスタを作る」 といった、ささやかで、すぐにでも実現可能な欲望も、同じくらい尊い。人生の幸福とは、大きな花火のような非日常と、線香花火のような穏やかな日常の両輪で成り立っているのだから。

③ リストを「生きた地図」として、更新し続ける

このリストは、一度作ったら終わりではない。それは、あなたの成長と共に変化し続ける、「生きた地図」だ。 年に一度、自分の誕生日に見直すなど、定期的に更新するルールを決めよう。達成した項目には線を引き、新しい欲望を書き加える。そのプロセス自体が、あなたが自分の人生のハンドルを、確かに握っているという「自律」の感覚を、あなたに与えてくれるだろう。


リストは、あなた自身を映し出す“鏡”である

「死ぬまでにやりたいことリスト」が書けない。 その悩みは、あなたが、いかにこれまで真面目に、自分の欲望に蓋をして生きてきたかの、誠実な証拠なのかもしれない。

だから、100個書けない自分を、決して責めないでほしい。

このリスト作りは、他人に自慢するための、面白い人生のカタログ作りではない。 それは、社会の中で迷子になった自分自身と、静かに向き合うための時間。 あなたが、あなた自身の、最高の理解者になるための、尊い「内省」の旅なのだ。

まずは、たった一つの「本当の欲望」を見つけることから、始めてみよう。 その小さな一歩が、あなたの人生を、あなただけの、納得感に満ちた物語へと、変えていくのだから。

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